独居認知症と夫婦認知症

2022/01/08

 蒼野は現在頭痛クリニック勤務なので、認知症を診る機会は、それほど多くはないのですが、今日は以前の勤務先での経験をお話ししたいと思います。

 症例1 73歳 女性 独居で心配性な性格のアルツハイマー型認知症。

 本当に3歩歩いたら全てを忘れてしまう人っているのだなと学んだ方です。一人暮らしで、自分でも薄々は忘れてしまう自覚はあるのか、心配になって、しょっちゅう来院されていました。初診時、お話を聞いて質問に答えたのですが、質問する端から忘れてしまい、延々と同じ質問を繰り返されました。

 診察室から出ていかれないため、30分同じ質問に答えたあと、2週間分お薬も出したのですが、受付でも、薬局でも沢山、同じことをおしゃべりして帰られました。しかし1週間も経たないうちにまた来院され、同じことの繰り返しです。認知症であることを丁寧に説明して、ご家族にも来院してもらうようお願いしたのですが、私は認知症ではないと言って聞かず、隣町に住んでいる娘さんも一緒に来院されることはありませんでした。

 いつも1人で来られ、他の患者様が待ち続ける中、30分近く喋り続けられるため、こちらも困り果てて、介護保険申請するように言って、包括センターに連絡して訪問して頂きました。しかし、頑なに門も開けず、自宅にも上げてもらえない為、どんな生活になっているのかも不明です。介護保険申請も進まず、出した薬もすぐに無くしてしまったり、飲むのを忘れてしまうようです。

 社会で見守るとか、介護保険でなんとか出来るというのは、認知機能低下が進んだ独居認知症では無理だ、というのが、蒼野が得た教訓でした。本人の話で、友人(?)から頭が良くなる水素の機械を60万円で買う予定だと言う話を聞いて、何とか娘さんには連絡を取ったのですが、元々仲が悪かったようで、今後の治療とか、ケアについてもほとんど関わりたくない様子でした。

 先日リコード法について、書かせて頂いたのですが、認知機能の改善は、大きく食事や運動などの生活習慣を変える必要があるため、自覚がある段階でなければ、改善は難しいです。薬も介護サービスも、届ける事ができず、特に独居認知症の治療は難しいと感じる事ができた症例でした。

 通常外来に来られる、本物の認知症の方は、熱心な家族に連れて来られる事がほとんどです。家族に説明して、家族の愛情があれば、生活を少しずつ変えたり、進行を遅らせる治療もできるかもしれませんが、独居の方では無理です。世の中にゴミ屋敷が存在する理由も分かった気がしました。また詐欺に引っかかる人が絶えないのも、よく分かりました。

 症例2 84歳の夫と79歳の妻で来院されたご夫婦。

 初診時、夫が奥様のハイヒールを履いていたのには驚きました。夫の検査結果では明らかなアルツハイマー型認知症でしたが、話を聞いていると、奥様もおかしいのです。奥様は、若い時には看護師をされていたとのことで、最近夫がおかしいので来院されたとのことでした。取り繕いは上手なので、奥様もアルツハイマーが疑われました。

 奥様は受診希望ではないため、検査等もせずに、夫の薬だけを出し、次回受診の予約をされて帰宅されました。次回の午前中の予約時間には来院されず、夕方になって来院されました。田舎の山の中にご自宅があって、奥様の運転で来院されましたが、奥様が道に迷ったとのことでした。その次の受診の時も、やはり道に迷われたとのことで、駐車場を見ると、車もあちこち、擦っていて、かなり危ない状態と考えました。

 奥様にも検査を受けて、車は運転しないようお話ししましたが、私はおかしくないと拒否されました。その後夫のケアマネージャーの方から連絡があり、生活について詳細が分かってきました。お子様は居られず、頼れる身内は居られません。

 ある日、夫は青あざだらけで、顔面の皮膚がひどく擦りむけたりした状態で受診されました。数日前に自宅で転倒したとのことでしたが、まだ乾いた血液があちこちに残っており、そのまま放置されていた様子でした。問題を目の当たりにしたケアマネージャーが、何とか夫の兄弟に連絡をつけました。

 見にきたご兄弟が、夫の状態を見かね、奥様に自宅を売って、ケアしてもらえる施設に二人で入るよう提案したそうですが、奥様が頑なに拒否。夫は迷子になったり怪我をしたりしないように、奥様が軟禁状態にして暮らしているとのことででした。最終的には見かねた兄弟が、長崎の地元に引き取ったとのことですが、奥様が今どうされているのかは不明のままです。独居認知症として、運転しながら暮らしておられるのではないでしょうか?

 皆様は驚かれたかもしれませんが、これらの症例は今後の認知症治療、ケアで大きな問題となる独居認知症や、認認介護状態となる二人暮らし世帯での認知症で、ありがちな症例と考えられます。

 日本は現在、団塊の世代の高齢化に伴い、世界一の超高齢社会に突入しています。65 歳以上の高齢者のいる世帯については、1986 年時点では、三世代世帯が全体のおよそ半数近くを占めていましたが、その後、一貫して減少し、2015 年では 12.2%となっています。

 一方で、1986 年時点で 13.1%であった単独世帯の構成割合は、その後、一貫して上昇し、2015年では全世帯の約 4 分の 1 が単独世帯となっており、夫婦のみ世帯と合わせると既に半数を超える状況となっているのです。

 2035年には46都道府県の高齢者の3割が独居老人になるとされており、最もその割合が多い東京都では、実に高齢者の44%が独居老人となると予測されています。2014年時点で、596万人近い高齢者がひとりで暮らしており、65歳以上のおよそ6人に1人がひとり暮らしということになるのです。

 一方、東京都健康長寿医療センターの研究によると、2020年には認知症の有病者は、少なくとも65歳以上の6人に1人で約602万人。認知症の有病率は年齢とともに急峻に高まることが知られており、80歳代の後半であれば男性の35%、女性の44%、95歳を過ぎると男性の51%、女性の84%が認知症であることが明らかにされています。

 今後団塊世代の高齢化に伴い、ケアや改善の対策が取り難い独居や、夫婦のみ世帯の認知症有病者数は、単純計算でも2014年時点で100万人を数え、今後もうなぎ登りに増加するものと考えられています。

 それに伴い認知症ドライバーの問題も深刻です。日本では2020年末の75歳以上のドライバーは推計600万人に上ります。運転免許更新のための認知機能検査の採点結果も、年代の上昇に応じて、認知症が疑われる「第1分類」率が高くなる事が分かっています。

 しかも年代ごとの「第1分類率」と「交通事故死亡者数」はおおよそ比例していました。結局、60歳以上で「第1分類」ドライバーの人数は約216万人と算出されています。どおりでブレーキやアクセルを踏み間違えたり、高速道路を逆走したりと、通常ならあり得ないことが頻繁に報道されることも理解できます。

 しかし高齢者だけで、田舎に住んでいれば、生活に車が必要であることも、現在の社会環境では理解ができます。公共機関もない所で、車がなくなるのは死活問題と思われるからです。

 蒼野はこんな症例を経験することで、認知症にならないうちに、各々が認知症のリスクを理解して、生活を変えてゆく必要を強く感じました。また自分は認知症になって、子供に迷惑はかけたくないという思いも強くなり、食事、運動、睡眠を見直しました。

 ギリギリ軽度認知障害(MCI)の段階以前で、自分自身が、正常に戻す努力をしなければ、自分の家族だけではなく、社会的にも、今後ますます大きな問題となってゆくものと思います。身寄りのない独居認知症や、認知症夫婦の問題は今後どうなってゆくのでしょうか?

 予防医学というのは、意識のある人にしか響かないことは承知しています。しかし、酸化、糖化、炎症のリスクは、現代の常識的な生活習慣を続けていると、とても高く、認知症を始めとする慢性疾患へとつながります。皆様にも、『明日は我が身』という事を是非知って頂きたいと思っております。認知症リスクを下げる生活習慣を、是非確立してゆきましょうね!

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