胃がもたれる時の対処法!

2022/11/02

 今日は真面目な胃のクスリのお話です。皆様は胸焼けする、胃が痛い、もたれて気持ちが悪いなどの時にはどうされているでしょうか? 最近ではOTCでもガスター10などのH2ブロッカーも買えますし、胃薬も沢山、店頭にありますね。胃薬を常用されている方も居られるかも知れませんね。蒼野も無知で若い頃は、暴飲暴食もあって、すぐに胃薬に手を伸ばしていました。

 胃薬、特に胃酸抑制薬を常用することに関して注意喚起がなされていることを知っている人は少ないかもしれません。患者様のお薬手帳をみると、高齢になるにつれて、薬の数も増え、薬が増えると胃に堪えるということで、胃酸抑制薬が長期に渡って処方されている方もよく見かけます。その点を今日は深堀りしてみたいと思います。

 まずどうして胃酸が存在するのかという点からです。胃でタンパク質が消化されるのはご存じですよね。タンパク質を分解するペプシンというのは、胃の細胞でペプシノーゲンという形で作られ、これが酸性の環境に出てくると活性型のペプシンに変わり、タンパク質を分解します。最初からペプシンの形であれば、分泌する細胞や胃自体が分解されてしまうからです。

 さらに酸性の環境は、口から入ってくる多くの細菌を殺してしまうため、食べ物が37度に保たれた体内で数時間滞留しても腐敗しません。つまり胃の中は強い酸性を保つ必要があるということです。胃自体はペプシンで消化されないように、胃粘膜が保護しています。

 しかし現代の慢性ストレスや暴飲暴食、ピロリ菌感染などがあると、胃酸と胃粘膜のバランスが崩れて、胃や、食道、十二指腸などが傷つき、ひどい場合には潰瘍が出来ます。こういう場合に活躍するのが胃酸抑制薬です。H2ブロッカーが使えるようになったのが1982年。それまでの昭和の時代は手術になっていた胃潰瘍が、薬を飲めば治るようになったのです。

 そしてその10年後の1991年には、さらに強力に胃酸を抑えるプロトンポンプ阻害剤(PPI)が使えるようになり、逆流性食道炎に対しての有効性も上がりました。2015年には、さらにしっかりと胃酸分泌を抑えるP-CAB ボノプラザン(タケキャブ)が開発されました。おかげで胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎は薬で治る病気となっています。

 飲めば効果が分かる、よく効く薬でもあり、ある意味何年も使われてきた薬であることから、日本ではH2ブロッカーが、外国ではPPIも含めて、薬局で買うことができるようになり、現在、世界中で最も広く使用されている薬の一つになっています。

 H2ブロッカーは、即効性がありますが、毎日使っていると次第に効果が落ちてくる為、短期の使用が勧められます。PPIに関しては、即効性が無く、3~5日目くらいから効いてきます。しっかり胃酸を抑えるため、潰瘍が治るまでは使用してゆくのが良いとされています。

 もちろん安全性の試験や研究も多くありますし、副作用に対する報告も上がっているのですが、蒼野としては、もともと身体が必要としている胃酸を、抑え続けるという使い方に疑問を抱いています。特にお年寄りが沢山の薬を飲む中に、かなりの確率で胃酸抑制剤が入っているのが心配なのです。

 エビデンスのあるデータではなく、蒼野の私見ですが、筋力低下が心配な上、消化機能も低下している高齢者のタンパク質の消化が、果たして胃酸抑制薬を飲み続けている状態で十分に可能であるのか疑問があります。また胃はミネラル吸収にも働いているため、胃酸が抑えられると、理論的には鉄やカルシウムやマグネシウム、ビタミンB12やビタミンDの吸収が悪くなるはずなのです。栄養不足による症状は、副作用とは報告されないと思います。

 胃酸が少ないために、胃の中で細菌が残ってしまえば、小腸の細菌が増えてSIBOの状態となり、お腹が張って、便秘や下痢を頻繁に起こす可能性があります。腸活に良いものを食べると、小腸の細菌がさらに増殖するため、年中お腹の調子が悪くなるのです。

 2016年、蒼野としてはショッキングな論文が発表されました。PPIが高齢者の認知症リスクを上昇させる可能性が示唆されたのです1)。後ろ向きの研究ですが、73679人を追跡すると、PPIを服用していた2950人の認知症リスクが、有意に高かったのです。PPIを内服していると、ビタミンB12が低下している人が多かったことも分かりました。

 2017年に発表された、女性看護師13864人の5年間の前向き研究では、有意にH2ブロッカー内服者で認知機能の低下が見られました2)。また骨粗鬆症についても、2011年の223210人のメタアナリシスで、1年弱PPIを内服していた人の、大腿骨骨折リスクが上昇していました。しかし3年以上の長期服用でのリスクには優位差が出ませんでした3)。

 カロリンスカ大学の研究では、2020年にようやく、実験室内では、PPIが合成酵素を阻害することで、アルツハイマーで減少するアセチルコリンの合成を減らしてしまうことが分かりました。

臨床的にも、症例報告レベルではありますが、PPIを処方された後、認知機能が落ちてきた患者様が、PPIを中止することで、認知機能が改善したという報告もあります。

 蒼野は、胃酸抑制薬を使わない方が良いと言っているのでは無く、潰瘍が治っているのに漫然と使用しないことや、高齢者に使用する場合には、認知機能などに関しても観察しながら使うことを、皆様に知って頂きたいのです。簡単で薬局で買えて、効果も感じやすい薬だけに、思わぬ副作用についても知っておく必要があります。

 日本老年医学会の2015年のガイドラインでは、H2ブロッカーについて「認知機能低下」の危険性があるので、「可能な限り使用を控える」と注意喚起されています。しかし高齢者のお薬手帳を見ていると、長期に渡って胃酸抑制薬を服用している人は多く、医師の間でもあまり知られていないのが現実のように思います。

 高齢でボケても、薬のせいとは思わなければ、そのままになってしまいます。日本神経学会が2017年8月に認知機能の低下を誘発しやすい薬剤を、300種類近くガイドラインで公表しています。その中には、PPIやP-CABも入っていました。その他に処方が多いものとしては、高脂血症治療薬であるスタチンのクレストールや、頻尿治療のベシケアなども挙げられています4)。

 今までの知識だけで、診療を続けている医師が一番問題ではありますが、全ての薬の副作用を知っている医師は、蒼野も含めてほとんど居ないと思います。副作用を恐れるあまり、必要なのに薬を使わないのは、やりすぎだと思いますが、ポリファーマシーの過去ブログでも書いたように、必要が無いのにたくさんの薬を飲み続けるのは本当に問題です。

 西洋薬は身体の中の反応をピンポイントに動かしてしまうという宿命を持っています。飲み続けていると、身体が自動で調節することができなくなるのです。病気や薬にもよりますが、出来れば薬は短期使用で改善を目指し、その後の予防については、生活習慣の改善で行うのが一番良いだろうと蒼野は昔から思っていました。

 胃もたれや痛み、胸焼けなどの症状に対しては、脂肪分の多い食事を控え、アルコールやコーヒーや香辛料などの刺激物を控え、7時間良眠し、タバコを吸わず、無理やストレスを避けて運動する生活を送ることが基本です。気持ちが悪くて食欲が無い時には、食欲が戻るまで水分のみで断食し、胃を休めてあげることも重要です。

 医学がこれだけ発達しても、不快な症状や病気はむしろ増えているものもあります。薬を過信せず、人類の遺伝子に合った生活に近づけてゆくことを心がけましょうね! より安全な食べ物や漢方、運動や睡眠などについて、これからも勉強してゆきたいと思う蒼野でした!

参考文献:
1)Association of Proton Pump Inhibitors With Risk of Dementia ; JAMA Neurol. 2016;73(4):410-416.

2)Association Between Proton Pump Inhibitor Use and Cognitive Function in Women
  Gastroenterology; 153(4), P971-979.  2017

3)Proton pump inhibitors and risk of fracture: a systematic review and meta-analysis of observational studies. ; Am J Gastroenterol. 2011 Jul;106(7):1209-18

参考書籍:4)認知症疾患診療ガイドライン2017   日本神経学会
     2-11 認知症の診断に影響を及ぼす薬剤はどのようなものがあるか P46-49 

過去ブログ:
https://blue-zone-life.com/ポリファーマシー!/

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