脳の老化予防

2021/12/10

 陸上で34種目の世界記録と750回の優勝という華々しい経歴を持つカナダのアスリート、オルガ・コルテコさんをご存じでしょうか? この人は77才になるまで本格的な陸上競技のトレーニングは一度もしたことがありませんでした。走り幅跳びと100m走が得意で、95才でこの世を去るまで、競技を続けました。現役最後の数年間は、世界高齢者室外陸上競技大会において、ライバルはほとんどおらず、競う相手が1人もいないことが多く、出場するだけで優勝したのです。

 オルガさんは丈夫な身体に恵まれ、これまでに病院を訪れたのはたったの3回。そのうちの2回は子供を出産するためで、後の1回は子宮摘出の手術を受けるためでした。彼女は元学校の教師で、2人の娘の母親だったのです。そして世界で最も偉大なアスリートの1人と言われています。

 興味を持った研究チームが、高齢者の脳でも、運動の影響があるのか、オルガさんの脳を調べさせてもらったところ、同年代の脳に比べて、海馬が大きく、大脳白質がとてもきれいなことが分かりました。また記憶力も大変優れていました。

 運動を始めるのは、何歳になっても遅すぎることはない様です。また運動を始めることで脳は強化されてゆきます。オルガさんは死ぬまで、認知症とは無縁でした。

 蒼野が健康長寿の模範と考えているブルーゾーンの長寿者も、その生活では、非常によく身体を動かしていることが分かっています。ブルーゾーンは大都市ではなく、離島や交通の発達していない田舎です。毎日沢山歩き、日常生活の範囲で身体を動かし続けることが、認知症にならない前提条件となる様です。

 運動は、主に海馬でBDNF(脳由来神経栄養因子)の分泌を促し、海馬や前頭葉を成長させることが分かっています。加齢と共に、通常は萎縮してゆく、海馬や前頭葉が保たれ、脳の老化を食い止めてくれるのです。逆に座ってばかりいると、前頭葉の萎縮が早くなることも分かっています。

 70~80才の女性 2万人を20年以上観察した研究では、毎日20分歩いている女性は、座っている時間が長い女性に比べて、記憶力、集中力、注意力共に上回り、脳機能は3年分若いということが分かりました。

 毎日意識的に歩くと、認知症の発症率を40%減らせるという事実もわかっています。現在年間500万円の薬剤費がかかる注射薬などが、アメリカFDAで暫定的に認可されたりしていますが、これほどの効果は無いのです。もし認知症を40%減らせる薬を開発できれば、ノーベル賞ものですし、飛ぶように売れるのでは無いでしょうか?

 しかしやることは簡単です。週に5日ほど、30分歩けば良いのです。もちろん、認知症には遺伝的な要素もあり、人口の3人に1人は、脳の老化や海馬の萎縮を早め、知的能力の衰えを促す遺伝子を持っていると言われています。しかし、遺伝的要素は、身体をあまり動かさないという問題ほど重要では無いのです。

 運動は、脳を取り巻く環境も最適に整えてくれます。身体を動かすと、血糖値を安定させ、ミトコンドリアが作ったエネルギーがちゃんと消費されるため、活性酸素の増加も抑えられます。血流が良くなり、脳に栄養をしっかり送り込むことができるのです。まさに『健全な精神は、健全な肉体に宿る』のです。

 現在までの研究で、証明された、認知症リスクを減らす運動は次のとおりです。

ウォーキングか、軽いジョギングを、週にトータルで150分、あるいは30分ずつ週に5日行うのが望ましいとされています。20分のランニングを週3日でも同等の効果が認められています。現時点ではまだ筋トレの効果は研究中とのことです。

 運動が大事だと、わかっていても、忙しい現代人は、運動している人は、少ないように思います。もちろん運動している人で、蒼野のクリニックに来る人は、少ないと思いますので、その時点でバイアスがかかっている可能性はあると思います。

 社会に出て忙しくなって、運動する時間がない。コロナでジムをやめた。毎日パソコンの前に座り、仕事が終わったら、スマホを見続けている、なんていう頭痛持ちの若い人の話ばかり、毎日聞いている気がします。

 このままでは、日本の将来がとても心配になります。時間の使い方と、運動の優先順位を変えて、幾つになっても、明晰な頭脳でいましょう。認知症になって、今までの記憶が消えてしまったら、貴方は別人になってしまうのですから….。

 認知症になりたくない一心で、毎日6km以上は歩いている蒼野でした。

参考書籍: BRAIN 一流の頭脳 アンダース・ハンセン

一流の頭脳 [ アンデシュ・ハンセン ]
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