雑食と偏食!

2022/06/19

 ホモサピエンスは雑食だったから生き残ったという記事を読みました。確かにそうかもしれないなあと思ったので、今日は雑食の重要性について書いてみたいと思い、書き始めました。

 現在の我々の歯は門歯、犬歯、臼歯からなり、肉食の動物は犬歯ばかりを持つことからも、雑食であることが分かります。また世界中の人々の食生活は、多種多様で、人類は、食べ物が何であっても、それに対応する事ができて、それなりに生きてきたことは納得できます。

 人間になれる可能性のあった猿は27種類いましたが、我々の祖先であるホモサピエンスだけが今日まで生き延び、残りの26種はすべて絶滅しています。ホモサピエンスと並んで、地球の覇権を握る可能性があったネアンデルタール人は、ホモサピエンスに比べて、肉ばかり食べていたために、環境変化や気候変化に適応できずに滅んだのではないかと記事にはありました。

 確かにネアンデルタール人は、身体も大きく、力もあって、マンモスやトナカイを狩って食べているイメージがあります。体格的にも、体力的にもホモサピエンスを圧倒しており、現在の中東地域でネアンデルタール人とホモサピエンスは何度も衝突していますが、そのたびに勝利をおさめたのもネアンデルタール人だったとのことです。

 現代人にも、ネアンデルタール人のような、野獣のような人もいますが(笑)、強い人類が残ってこなかったのには何か理由があると、考えられています。それが食性の違いかもというお話です。読みながら、なるほどなあと蒼野は思ったのですが、ネアンデルタール人の食事について調べてゆくと、そうでは無いことに気づきました。

 スペインの洞窟や、ベルギーの洞窟で発見された3~4万年前のネアンデルタール人の歯から採れた歯垢を分析すると、確かにベルギーではサイや羊の肉類が中心でしたが、キノコも食べていました。しかしスペインでは肉類を食べた形跡が無く、この土地のネアンデルタール人はキノコ、松の実、コケ、樹皮などを食べていることが分かったのです。

 さらに5万年前の、ヒトの便の化石が見つかっています。このネアンデルタール人は、肉も食べていましたが、ベリーやナッツなどの野菜もたっぷり食べてバランスを取っていた事がわかりました。確かにネアンデルタール人にも臼歯があり、雑食だったと考える方が自然です。

 ホモサピエンスが生き残った理由に関しては、『サピエンス全史』で、尊敬するユヴァル・ノア・ハラリ先生が考察されたように、ホモサピエンスだけが、「虚構=フィクション」、すなわち架空の物事を信じる能力を身につけたことで、人間同士が同じものを信じて協力し、数と知能の力で、自分達よりも強いものを滅ぼすことができたのだ、という説が有力な様ですね。

 確かに一対一で、ホモサピエンスとネアンデルタール人が戦ったら勝ち目は無かったはずです。同じ物を信じて、協力して戦うこの「認知革命」が、ネアンデルタール人や、他の動物も制圧し、食物連鎖の頂点に立つ原動力になったというのは、一番納得のいく考え方かと思います。気になる方は、超分厚いですが、面白いので『サピエンス全史』、読んでみてくださいね!

 雑食から道が逸れてしまいました。雑食にはさまざまなメリットがあります。一つの食品を完全食品として、それ以外の必要な栄養は身体の中で合成するという動物は沢山います。ユーカリを食べるコアラとか肉を食べるライオンとかです。そんな動物は、その食べ物が得られない場所で生き残ることはできません。

 雑食であれば、暮らして行ける範囲がグッと広がります。あらゆる地域、あらゆる季節に取れる食材を食べて生きて行けるのです。その代わりに、何を食べると危険で、何を食べないといけないという知識も必要となります。これが栄養学です。

 食べ物の急性毒性の知識は必須です。毒キノコを食べると死んでしまうかもしれません。何が危険な食べ物なのかは、好奇心旺盛な人類が、命を賭けて判別してきました。身体に必要な栄養も徐々に分かってきます。1891年にドイツでたんぱく質、炭水化物、脂質の3大栄養素が発見されました。

 16世紀から18世紀の大航海時代には、新鮮な果実や野菜を摂取することができなかった船員たちの間で壊血病が流行しました。200万人の船乗りの命が失われました。1795年にようやく治療に柑橘系の果物が有効であることが分かってきました。

 我が国のビタミン欠乏症の代表は脚気で、陸軍軍医の森鴎外は,脚気は伝染病と考えましたが、海軍軍医の高木兼寛は、欧米に脚気が出ないことから、食事が原因と考えました。そして、食事に米糠混ぜると予防できることを見つけました。その後1910年に、世界で初めて、鈴木梅太郎が米糠からオリザニン(ビタミンB1)を抽出しています。

 我が国の栄養状態は、明治政府がドイツ医学を導入すると同時に、栄養学や食事療法も取り入れるようになって改善しました。国民に啓蒙することと、給食によって、.1960年代になれば,食糧不足や食品摂取の著しい偏りによる低栄養問題は解決されたのです。日本人の体格は良くなり、寿命も飛躍的に伸びました。

 そして飽食の時代で、長寿の時代になると、今度は食べ物の摂りすぎによる、慢性の毒性の問題が浮かび上がってきています。食べて快感が得られる、糖質や脂質、塩分を中心に食べ物が流通しやすく、忙しさにかまけて、自分でコントロールしなければ、人類は元々雑食なので、何でも食べれてしまうからです。

 価値観も多様化しており、これだけ栄養の知識が溢れていても、情報過多の時代には、自分の興味のある知識しか脳にインプットすることができません。例えば若年女子を中心に、極端な痩せが美しいという価値観で栄養失調になったり、「肥満は悪」ということで、高齢者がダイエットで、フレイルに陥ってしまったりすることも増えてきている気がします。

 一方、蒼野の外来を受診する、働き盛りの方々は、自分は普通に生活しているので、大丈夫と信じている人が多い様です。しかし運動不足で、加齢とともにメタボリックになりやすく、生活習慣病リスクが増加してきている人が多いように感じます。簡単に手に入る、好きなものを好きなだけ食べる食事はやはり危険なのです。これは現代の偏食です!

 人類の雑食性を取り戻しましょう! 野菜を中心に、毎日多種多様の食材を、偏らせずに少しずつ食べてゆくことが一番重要である様です。これは腸内細菌の多様性にもつながります。季節の旬のものを食べることも良いですね。毎日同じ様なもの、つまりコンビニとかカップラーメンでは、早晩身体は壊れてしまいます。

 年齢に合わせて、食生活を見直してゆく必要もありますね! 全年齢を通じて、多種多様の食材を雑食して欲しいです。特に65歳までは、糖質や脂質、塩分が多くなりすぎない様に! そして65歳からはタンパク質摂取を心がけましょう。

 多種多様の食材で料理を作るには、手間も時間もお金も頭脳も必要です。しかしこれこそが、健康長寿の、必要条件だと思いますので、ストレスを溜めない程度に頑張ってゆきましょう。様々な料理を作れば、脳が最大限活性化されますよ!

 たまには料理にも挑戦しようと思う蒼野でした。 

参考書籍: サピエンス全史 (上)   ユヴァル・ノア・ハラリ

サピエンス全史 上 文明の構造と人類の幸福 [ ユヴァル・ノア・ハラリ ]
価格:2090円(税込、送料無料) (2022/6/19時点)楽天で購入

もし記事が良かったよ!と思われた方は蒼野健造公式ラインのボタンをポチッと押して、ご登録くださいね。ライン登録された方で希望される方は、オンライン面談での相談に乗りたいと思っております。