高脂肪食が太る理由!

2022/09/09

 今日は、ずっと疑問に思っていたことを調べてみました。蒼野は、インスリンが出ているかどうかが、唯一の太る要素だから、低インスリンの状態で過ごせば、適正体重が維持出来るという考え方が正しいと思っていました。しかし高脂肪食を食べると太るという意見も根強く目にする為、はっきりさせたいと思い調べてみたのです。

 脂肪をいくら食べてもインスリンは分泌しないため、太らないと思っていたのは違っていました。ここで訂正し、是非皆様にも知っておいて頂きたいと思います。ヒトを含む生物の身体の反応は複雑ですねー! 高脂肪食を摂ると太るというのには、先日も書いた食欲中枢への作用が関係している様です。

 まずはラットとマウスの実験の報告です。通常食の約2倍となる、カロリーの60%が脂肪に由来する高脂肪食をラットとマウスに食べたいだけ食べさせました。すると、その視床下部では,食事開始後24時間以内にさまざまな炎症マーカー(炎症や組織障害によって変動する体内の物質)が増加し始め,1週間以内には炎症による神経の損傷も検出されました1)。

 その後1週間で、一旦炎症は治りますが、高脂肪食を続けていると、1カ月後から炎症マーカーは再び高値となり、実験終了となる8ヶ月目まで持続しています。高脂肪食を続けると、視床下部の損傷が起こるのです。視床下部は食欲やエネルギー代謝制御の最高中枢であり、ここに炎症が起こることで、食のリズムがすぐに乱れ、過食と肥満が引き起こされるがわかりました。

 過去の研究で、肥満になると脂肪細胞からのレプチン分泌が増え、レプチン自体は炎症を惹起する性質があるため、視床下部にも炎症を起こし,食欲や体重のさらなる増加の原因となることは,ラットやマウスによる実験ですでに知られていました。しかし、1食でも高脂肪食を食べただけで、脳に炎症が起こるというのは新しい知見です。

 ヒトでも34人の被験者で検証すると、肥満度が高い人ほど視床下部の炎症性神経損傷が認められました。一度太ってしまうと、視床下部の炎症が治らなくなり、食欲が増すことで、さらに太るという悪循環に陥りやすいことが推測されるのです。

 もう一度ヒトの食欲についておさらいしておきます。食欲は脳の視床下部とそれに影響を与える報酬系の二つのシステムで、コントロールされています。飢餓の歴史を生きてきた人間は、通常は視床下部が、使うエネルギーに見合ったエネルギーを摂るように調節します。カロリーが高い食べ物に遭遇した、数少ないチャンスには、報酬系が加わって、食べれるだけ食べて、それを蓄えることで生き延びて来たのです。

 視床下部が受け取る情報は、単純な血糖値の上下だけではなく、消化管からのグレリン、ペプチドYY、GLP-1といったホルモン、脂肪細胞からのレプチン、消化管の中の状態や肝臓の栄養状態が迷走神経で伝えられます。視床下部内の弓状核にある、満腹ニューロンと空腹ニューロンが、情報を統合してどれだけ食べるのかを決めているのです。

 野生動物が太ることがないように、このシステムは極めて優秀です。食べたカロリーが使うカロリーよりも高いと太ると、昔から言われていますが、ヒトにおける30代以降の1年に1kg、10年で10kg増加するような、いわゆる中年太りでも、カロリー収支に置き換えると、食べたカロリーと使うカロリーの差は1%以下なのです。視床下部の正しい命令であれば、カロリー収支はピッタリと合うはずで、痩せも太りもしないということになります。

 しかし視床下部で慢性的な炎症が生じていると、脳内のマクロファージであるミクログリアが活性化し、レプチンから発せられる食欲抑制シグナルをブロックする物質を分泌するのです。また報酬系の炎症では、美味しいものを食べて報酬を得ても満足できなくなり、よりカロリーが高くて報酬価値が高いものを求め続けるようになります。恐ろしいですよね!

 そして脳にこの炎症を起こす二大原因が、肥満と高脂肪食だったのです。これで脂肪を食べると太る原因がはっきりして来ました。また肥満や高脂肪食は、身体のインスリン抵抗性を増加させます。糖質を少し摂取しただけでも、インスリンが余計に分泌されることになるため、高脂肪食で高まる血中の中性脂肪は脂肪細胞に取り込まれ、脂肪細胞の中性脂肪はエネルギーに変わりにくくなってしまうのです2)。つまり太りやすく、痩せにくくなります。

 また高インスリンの状態自体も、慢性炎症を起こします。悪循環が完成し、太れば太るだけ、太りやすくなる! 糖質制限でも揚げ物や肉ばかり食べていると、食欲が増して、逆に太ってしまうというのはこういう理由があったのですね! 厳しい糖質制限などの、極端なダイエットが長期的には、上手く行かない理由も、食欲や代謝が複雑に影響しているからなのだと思います。

 ストレスの食欲への影響も複雑です。ストレスがあると、コルチゾールが出ることは有名ですが、コルチゾールの分泌を促進する副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)というホルモンが視床下部のCRHニューロンから分泌されます。CRHニューロンが活性化されると、満腹中枢や摂食中枢に影響を与えることが観察されています。

 強いストレス下では食欲は抑制されます。敵に襲われた時にお腹が空く動物は居ません。のんびり食事を摂る余裕はないのです。しかし中等度から弱いストレス時が続くと、食欲は亢進しやすいのです。睡眠不足のストレスで食欲は増しますし、嫌なことがあっても食べたくなる人は多いです。ストレス耐性がない人は、逆に食べれなくなって痩せてしまいます。

 マウスは肝臓のグリコーゲンの備蓄が少ないため、1日絶食しただけで飢餓の危機が訪れます。その状況で、高糖質食と高脂質食を用意すると、マウスは高糖質食を選びます。マウスは本来は高脂質食を好む動物なのですが、生命の危機のようなストレス下では、CRHの影響で、素早くエネルギーに変わる糖質を好むように嗜好が変化するのです3)。

 ここで蒼野が思い出したのは、友人が先日ボディメイクの大会に出るために、直前に極限までカロリーを絞ったあと、大会が終わると、甘い物の欲求が収まらず食べ続けたと言うエピソードです。死ぬかもというストレスがあると、ヒトも甘いものへの欲求が止まらなくなる様です。

 さて結論です。一生ヒトが動物として最適な体重を維持するには、脳の炎症を避け、インスリン抵抗性から脱却することがポイントとなります。高脂肪食が多くなっても、糖質が多くなっても良くないのですね! インスリン抵抗性は間欠断食で改善することができます。

 古代人にはあり得なかった血糖スパイクを避けるために、1食当たりの糖質量は40g以下としながら、高脂肪食に偏ることなく、タンパク質、野菜、発酵食品を多めに摂る食生活がやはり理想だと思います。超加工食品は、我々の食欲が増すように、糖質と脂質は多めで、タンパク質が少なめ、ビタミン、ミネラルは少なく、添加物山盛りの食品となっていますので、異常な食欲を刺激しないためにも、極力避けてゆくのが安全です。

 高脂肪食で肥満すると、レプチン抵抗性が増加する様です。運動してBDNFが分泌されると、レプチン抵抗性が改善するというデータもあります。結局当たり前の結論ですが、食事、睡眠、運動を整え、ストレスコントロールをすることしか、長期の体重コントロールを支える方法は無いことが確信される結果になりましたとさ!

参考文献:

1)Obesity is associated with hypothalamic injury in rodents and humans : Corrigendum.  122(1):153-162. 2012   

2)肥満と生体エネルギー代謝 箕越 靖彦 ファルマシア36 巻 9 号 p. 775-779 2000 

3)Activation of AMPK-Regulated CRH Neurons in the PVH is Sufficient and Necessary to Induce Dietary Preference for Carbohydrate over Fat : Cell Rep. 22(3):706-721  2018 

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