今日は蒼野個人が、一人の医師として、何とかしたいなあ、と感じ続けていることについて、ぶっちゃけてみたいと思います。それは資本主義の中での過剰医療の問題です。少子高齢化や医療費、社会保険料の増加と共に、今後ますます問題になりそうだなあと感じているのです。
もちろん医師として給料を貰って働いている身の上ですので、病院が潰れる様な話がしたい訳ではありません。今まで様々な医療機関で働かせてもらって、患者の為ではない医療も多く経験して来ました。あまりに理不尽な命令には、従わずに来ていますが、忙しかったり、患者様の希望だったりすると、過剰な医療を行っているかもと思うことは確かにあるのです。
日本の医療は、日本漢方が全盛だった江戸時代から、明治維新に西洋医学が輸入され、医学部が出来てきたのが、現代医療の始まりです。第二次対戦後、一旦リセットされ、医療機関なんて、まるで足りていない時代に、高度成長期にも重なって、官民ともに様々な病院が作られました。
病床数は雨後の筍の様に増えてゆき、1987年に地域医療計画で病院の増床が出来なくなるまで続いてゆきました。今や人口あたりの病床数は世界一、アメリカやイギリスと比べても約5倍です。しかし病院が多くなったら、人々が健康になったかと言えばそんなことはないのです。それは最近見かけた論文にも書かれていました。
『都道府県の医療費と住民の健康度の関連性に関する実証的研究』1)という論文によると、都道府県の中で最も一人当たりの医療費が多い県は高知県で68.4万円、最も低いのが新潟県で49.8万円です。これは高知県人が不健康で、新潟県人が健康なのかというとそうではありません。また医療費をかけた県の人が病気が治って、健康になった訳でもない様なのです。
有意に関係していたのは、都道府県の十万人当たりの病床数でした。論文のグラフでも、明らかに正の相関が見て取れます。つまり病院が多いほど医療費は使われやすいという事です。これはあるあるで、蒼野の務める病院でも、毎週経営会議で、いかにしてベッドを埋めるのかが議論されています。
大いにご批判はあるとは存じますが、病院が潰れるくらいなら、必ずしも必要のない入院や、検査、治療に誘導されるということが、日常的にあるであろうということを示していると思われます。もちろん潤っている大きな病院でも、利益の追求のために、患者様のためだけではない医療が行われているということになります。
「経過を見るために入院しましょう」とか「大事をとって、念の為の検査をしましょう」なんて言葉を使った記憶が、蒼野にもあります。これはもう一つの論文2)のアンケートでも出て来ます。「経営上求められる検査や治療がどちらかと言えば存在している」と回答した医師は全体の4割、「患者の健康を害さない治療の幅の中で、患者の幸福よりも病院の利益の最大化や入院患者の確保を優先する」とする医師も2割います(答えにくい質問なので、実際はもっといると思います)。
蒼野も研修医の頃は、経営なんて糞食らえで、患者の利益を追い求めていましたが、上の立場になると、経営陣の意見を聞かざるを得ない立場にもなり、両方とも考える様になりました。レントゲン200枚分の被曝をするCTも、特に子供さんでは撮らずに様子を見る様話したりするのですが、最初からお母さんが強く希望されたりすると、そのまま撮ったりしてしまいます。
このアンケートは先ほどの医療費の多い5県と、少ない県5件で比べると、やはり医療費が多い県、つまりベッド数が多い県の医師ほど、検査自体や、入院患者確保や満床を重視する姿勢についても、有意に積極的であることが分かりました。
もちろん中には、医は算術という、お金儲け目的の医師も存在はしていますが、蒼野が知る限り少数派です。大多数は患者様のことを誠実に考えながらも、ついつい医療が過剰になってしまうということなのです。
わざわざ外来に来た患者様に、生活習慣について説明しただけで、薬を出さずに帰したら、何を言われるか分かりません。多剤併用の話にしても、年々高血圧や高脂血症の基準値が下がっており(過去ブログ)、健診で引っかかって来た人に、薬を出してしまう医師が多いのもうなづけます。
有名な例ですが、2007年に財政破綻した夕張市では、171床の病床が19床に減りました。まさに医療崩壊なのですが、救急車が半減したものの、医療難民は現れず、それまで満床だった病院から、患者様は在宅医療となり、死亡率は変わりませんでした。まさに過剰医療が、適正化されたとも考えられる事態となりました。
在宅医療に移った患者様の死因としては、老衰という病名が増えました。訪問医師が患者様とその家族と人間関係を作って、日頃から観察することで初めて老衰と診断することができるのです。急変して救急車で運ばれてすぐに付けられる診断では無いのです。中には死ぬ3日前にお店で美味しくビールを飲んで、あの世に行けた人もいたとのことです。
蒼野自身、病院で寝たきりのまま、あの世に行くのは勘弁してもらいたいと思っています。医療というものはある程度までは必要ですが、行き過ぎると幸せから遠ざかるものの様な気がしています。そして、医療はビジネスという側面を持っていることも忘れてはいけません。
一生懸命患者様と向き合っている医師は、過剰医療についてほとんど意識していない様に思います(自分もそうだったので….)。先日も書いた薬屋さんの説明会だったり、忙しすぎて入ってくる情報がどうしても偏り、正しい判断が難しくなっていたり、社会常識からズレていたり、病院の経営について迫られたりすると、どんどん新しい薬を使って治療するのが最善だと、洗脳される環境にあるのだと思います。
自分自身や家族にとって、健康や命は本当にかけがえの無いものでもあります。ですから健康や命に関することには、背に腹を変えられずにお金を出すのです。しかし資本主義社会の中では、それにつけ込むかのような、保険とか、人間ドッグや健診、病院、ワクチンビジネスなどが、多すぎる様にも感じています。
AI時代に入ったこともあり、昔は任せるしかなかった医療の世界も、別の業界の人でもかなり見通せる様になって来ていると思います。病気や死は悲しいですが、人は必ずいつかは死にます。一般的なちょうど良い医療をチョイスできる様、色んな情報を得て、賢い患者になることが重要だと思います。自分の最後も自分で決められる人になれると良いですね!
これからの医師は、患者にAIが味方する時代になるだけに、ますます厳しい時代になりそうです。藤井聡太くんが将棋で勝てないように、診断については、AIに敵わない時代になると思います。親身に個別に患者様に合わせて、どの様に治療してゆくのが幸せなのか、を考えられる医師になる必要があると思う蒼野でした。
参考文献:
1)都道府県の医療費と住民の健康度の関連性に関する実証的研究 ; Policy and Practice Studies, Volume 8, Number 1, 2022 79-85
2)医師アンケートに基づく過剰医療の実態に関する研究 ; Policy and Practice Studies, Volume 8, Number 1, 2022 67-78
参考ページ: 自宅で「老衰」を迎えられる人が増えた…財政破綻の夕張市で予想外に起きた「医療の敗北」を報告する https://president.jp/articles/-/63679?page=1#:~:text=2007年、北海道夕張市,に縮小されました。
過去ブログ
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