生物はなぜ死ぬのか?

2023/04/05

 生物にとても興味がある蒼野が、とても共感できる考え方に出会いました。その人物は、日本の老化研究の第一人者である、東京大学定量生命科学研究所の小林武彦教授です。生物学者で、ずっと研究を続けてきた小林先生の、考え方は、現在生きている生物は全て進化の過程で、残すべき遺伝子を残し現存しているというものです。

 蒼野も、人類の遺伝子も、種の保存に適合したものだけが残っていると思っていたので、基本的に同じ考え方なのだと感じました。人の健康寿命を伸ばすことを考える上でも、大事なことが沢山含まれています。今日は小林先生のスピーチの内容なども含め、著書にもある『生物はなぜ死ぬのか』とか、なぜ老化するのかについてまとめてみたいと思います。

 地球上には約800万種の生物が存在すると言われています。そして個々の生物は時が経てば死にます。地球での最初の生物というのは、海の中の熱水が噴き出るようなところで誕生したと考えられています。熱水によってどんどん供給される物質が、温度によって化学反応を起こし、生物の材料となる有機物ができました。

 中でも生命の種とも言えるRNAは、アデニン、チミン、グアニン、ウラシルという4つの塩基が繋がった長い紐の様な物質です。1、化学反応を起こしやすく、自身で形を自由に変えることができる性質と、2、コピーを作って複製できる性質、3、壊れやすい性質を持っています。

 グアニンとチミン(GとC、ジャイアンツとカープと覚えます)、アデニンとウラシル(AとU、AUと覚えます)が結合しやすくペアを作るため、RNAの鋳型を作ることができるので、どんどん同じRNAを増やすことができる性質があるのです。そしてとても壊れやすいため、RNAの中でも、どんどん増えるものが残り、増えにくいものは消えてゆきます。

 RNAは複製の際に、エラーが起こることがあるため、変化を起こします。ウイルスの変異とも似ていますね! 変化したものの中でどんどん増えるものが残り、そうでないものは消えてゆきます。これが「変化と選択」です。別の言葉では『進化』です。周囲の環境に適応して増えてゆくものが、進化して残ってゆくというのは、最初からのルールなのです。

 やがて不安定な一本鎖のRNAは、やがて2本が対になった、より安定したDNAとなりました。突然変異でタンパク質が作れる様になり、そのうちにDNAが油の膜に包まれた構造が生まれ、単細胞生物が生まれます。何度も変化を繰り返し、その中で増殖し、適応したものだけが選択され、進化という形で進んでゆくというのが、自然の摂理です。

 そうして残ってきた細胞が集まって様々な生物に変化してゆきます。変化は続いてゆき、より進化した遺伝子が残って、種が保存され現在に至ります。進化するということは、個体は死ぬことが前提です。次の世代に変化を伝えるためには、死なずに生き残るというのは不利なことになります。

 つまり全ての生物は死ぬ事で、種が生き残る様に、作られているという事になります。これは人間も例外ではありません。死ぬというのは、種の保存のためにデザインされ、プログラムされていると考えることができるのです。大きな目で見れば、我々は子孫のために死ぬということです。その方が種の進化と保存には有利なのです。

 死への過程が老いです。これは思春期に声変わりするのと同じです。老い自体も、死んでゆくために、最初からプログラミングされていることという捉え方が出来ます。中高年になって白髪が生え、シワが増えて行くのは、我々の遺伝子に刻まれているプログラムになります。

 しかし人間が他の動物と違うのは、そういった遺伝子や生物学以外の、社会的な要素が死を決めることです。人間の寿命は社会が決めるというのは、現在寝たきりの人を沢山診ている、蒼野が実感しているところでもあります。

 世界の国を見ても、栄養状態や衛生や医療の状態、紛争などによって、寿命が左右されているのは納得できます。現在の日本では、老化して自立できなくなり、病院に入って数年間管理された後に、筋力や免疫力が低下し、亡くなる人が多いのです。確かに人の死に方は社会が決めているといっても過言では無さそうです。

 人間以外の動物は、基本ピンピンコロリです。蒼野が今まで飼ってきた犬も、死ぬ前の日まで、一緒に散歩に行ったのを覚えています。確かに階段でつまづいたり、転びそうになっていましたが、その日に急に亡くなるとは思いませんでした。動物の場合は、心臓の機能が老いで限界を超えると、急に亡くなるパターンが多いとのことです。

 人間も生物学的なプログラムでは、血管や心臓の老化によって、脳の血管が切れたり、心臓が止まったりして最後を迎えるはずらしいのです。これがピンピンコロリ、死ぬ前の日まで健康に過ごしていて、突然死ぬということなのかもしれませんね。よく朝起きてこないので見に行くと死んでいたなんていうパターンです。

 最近では、医療の発達で血圧管理をはじめとする生活習慣病の管理が改善し、心血管死は減り、寿命が延びています。日本では実際に2000年代半ばから心血管死は減少し続けています。その代わりに、高齢化に伴って癌や認知症が増えています。これらは老化に伴って増えてくる病気です。

 ずっと存在している物質は、時間の経過とともに朽ちてゆきます。新しい物でも、時間とともに錆びたりしますよね! 全身の細胞も同じです。若い頃は修復できて、新しい細胞に生まれ変われていたのに、細胞レベルの老化が進むと、癌や認知症につながります。老化細胞が増えてくると、炎症性サイトカインを分泌し、筋肉にしても内臓にしても、組織の機能が低下していきます。フレイルやサルコペニアもこれが大きな原因の一つです。

 細胞の中で、特に劣化しやすいものが、タンパクを作るリボソーム(細胞内でタンパクを作る工場)の設計図であるリボソームRNAなのだそうです。リボソームRNAに結合して、痛みにくくするものがSir2(サーチュイン遺伝子=長寿遺伝子)です。

 リボソームは人間の体内の細胞に、30~40万個も存在します。リボソームRNA(リボソームの設計図)は若いうちは傷んでも、修復されます。そのために必要な補酵素がNAD+です。若いうちは体内に沢山ありますが、加齢とともに枯渇してゆきます。NAD+があれば、Sir2を活性化し、元気なリボソームが、細胞の健康を保ってくれます。

 現在トライされている抗老化対策としては、食事制限や絶食、寒冷刺激などによるSir2の活性化、NAD+の前駆物質であるNMNの内服、老化細胞を除去する薬などが有望ではないかと言われています。老化も死も避けることは出来ません。若い世代が新たな進化を遂げるために、死も老化もあると考えると、気持ち的には受け入れて行ける気がします。

 生活習慣で試せる抗老化習慣に努めながら、いつかは老いて死ぬんだなあ、ということも頭の片隅に置いておいて、毎日を大事に生きてゆきたいと思う蒼野でした。

参考書籍:  生物はなぜ死ぬのか   小林 武彦

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