IgA!

2022/07/10

 今日は免疫で最初に病原体の侵入を食い止めるIgAに注目して、免疫力のキープについて考えてみます。日本人にはIgAに関係する腸内細菌が多く、これがコロナでの死亡率を下げている、ファクターXの一つではないかと言われています。IgAがどんなものなのか、どんな生活で活性化して、免疫力が上がるのかを書いてみたいと思います。

 コロナ禍になって、蒼野も特に気になっているのが免疫力です。同じウイルスを吸い込んでも、コロナに感染する人としない人がいるのは、免疫力の違いだと思うからです。また重症化や、後遺症に関しても免疫力によって、どうなるかが決まると思っているのです。

 一般的に免疫は、侵入した細菌やウイルスなどの異物から身体を守る、体内の老廃物やがんなどの異常な細胞、死んだ細胞などを処分する、傷ついた細胞があれば修復するなど、身体の異常に気づいて正常な状態に戻し、ホメオスタシスを保ち、身体全体の調子を整えるシステムのことです。

 異物が体内に入ると、それを排除する抗体の役割を持つ免疫グロブリンが作られます。免疫グロブリンは、IgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5種類で、IgAは、病原菌やウイルスの侵入を防御するという重要な役割を担っているのです。

 IgAは、体内では2番目に多い免疫グロブリンで全身の粘膜に存在しており、粘膜表面からの病原体やウイルスの侵入を防ぎます。ワクチンで出来るIgGのように、特定のウイルスなどに反応するのではなく、多くの種類の細菌やウイルスに反応するという特徴があり、さまざまな感染症の予防ができる、オールマイティな免疫グロブリンです。

 生まれたばかりの赤ちゃんは自分でIgAを作ることができないため、出産後に数日間分泌される初乳を飲むことが重要です。初乳にはIgAが多く含まれ、感染から守ってくれます。通常腸管内に全身の60%のIgAが存在しています。腸内細菌叢とも密接に関わっており、ビフィズス菌の一部にIgAを高めるものがあるのが知られています。

 そしてIgAは、生活習慣によって大きく変化します。IgAを減らす生活習慣は取りも直さず、免疫力を下げる生活習慣ということになります。これには生活の基本である、食事、睡眠、運動、ストレスが全て関わってくるのです。それでは具体的に見てゆきましょう!

 まず食事からです。1つ目はタンパク質不足です。IgAの原料もタンパク質ですので、不足すると作られにくくなります。国民栄養調査を見ると、タンパク質摂取量は1990年代をピークに、200年代になって低下してきており、現時点では1950年代のレベルまで減少してしまっています。総じてタンパク質を含む食べ物は、価格が高いため、日本経済の停滞や貧困層の増加などを反映している可能性があります。

 2つ目は野菜不足です。腸内環境を整える食物繊維不足という面と、必要なビタミンミネラル不足の面があります。昭和40年と令和元年を比べると、一人当たり年間18.1㎏も野菜の摂取量が減っていることがわかっています。厚生労働省の目標値として、菜を1日350g以上摂取することが推奨されますが、男女全年代の平均でこれを下回っており、特に、20代~50代の働き盛り世代における野菜の平均摂取量は300g以下となっています。

 そこから推測される、栄養ももちろん不足しており、決して高く設定はされていない我が国のビタミンやミネラルの必要量に比べ、幅広い世代でビタミンやミネラル等の栄養素の摂取量も不足しています。特に20代女性では、ビタミンA、B、C、D、カルシウム、マグネシウム、鉄と食物繊維、20代男性でも、鉄以外の摂取量は、女性と同様に基準値を大きく下回っています。

 細かく見ると、ブルーベリーなどの抗酸化物質(ポリフェノール)の一種であるアントシアニンは、免疫物質 IgA を増やす働きがあることが判明しています。カシス、ブルーベリーやぶどう、赤紫蘇、紫キャベツ、ナスなどを積極的に摂りましょう。

 IgAと連動して、免疫の最前線である粘膜の働きを強化する食材としては、ビタミンAを豊富に含むレバー、ウナギ、モロヘイヤ、かぼちゃ、ほうれん草、ニンジンなどが重要です。発酵食品と食物繊維で腸粘膜も、強化してゆきましょう。

 免疫はIgAだけではないため、自然免疫であるNK細胞を活性化する葉酸、マクロファージや好中球を活性化するアルギニン。T細胞やB細胞などに必要なビタミンB6を始めとするビタミンB群、ビタミンDや亜鉛、セレンなども大切です。免疫細胞が病原体を殺すときに使う活性酸素から身を守るためには、抗酸化作用を持つ各種ポリフェノールが必要です。食生活が偏っている人は、サプリメントでも良いのでこれらを補充しましょう。

 不足しないように水分を摂取するのも重要です。喉が渇いた時点では、すでに脱水になっています。粘膜まで乾燥すると、気道上皮にある線毛の働きが低下することで、病原体を運び出すことができなくなるため、粘膜からの病原体の侵入を容易にしてしまいます。実験では、イオン飲料を飲んだ方が、体内に水分が残りやすく、線毛の運動も低下しませんでした。

 水分量は重要なので、体重×40mlー1000ml/日の摂取を確保しましょう。もちろん発汗が多かったり、利尿作用のある飲み物やアルコール摂取の時には増やす必要があります。喉が乾燥すると風邪をひきやすくなるのはこのためです。湿度が低い時には加湿することも大切です。快適で感染しにくい湿度は40~60%と言われています。

 次は睡眠です。睡眠時間と唾液中のIgAの関係を見た研究では、睡眠が5時間以下で時間が短いほど、唾液中の IgA の分泌量が低下していました。 一方、同じ研究で9時間を超えた場合でも、唾液中の IgA 分泌量が下がる傾向にありました1)。米国の大規模調査では1日の睡眠時間の平均が約7時間の人が、最も死亡率が低く長寿ですので、免疫力もそれに準ずるものと考えます。

 そして運動です。適度な運動は免疫機能を向上させます。しかし過度な運動は、それ自体が身体にとって大きなストレスになり、免疫機能を低下させることも分かっています。身体を極限まで追い込むアスリートたちの間では、試合の前後などで風邪を引きやすいことが経験上知られてきました。

 18~85歳の男女1002人を対象に、冬期12週間の風邪の症状と運動頻度の関係を調べた研究2)は、適度な運動 (汗を軽くかき、心拍数が少し上がる軽い活動を20分以上継続する運動)をする日数が多い人ほど風邪をひく日数も少なく、重症度も低いとの結果が報告されています。

 また運動習慣のない健康な男性に適度な運動を続けてもらうと、日に日に唾液中のIgAが増加した報告や、高齢者を対象にした研究でも、週に2回の運動教室を1年間継続してもらったところ、唾液中のIgAが増加した状態で1年間経過したことも確認されています。目標としては、日常生活で毎日60分間、家事や歩行を行い、さらに週2回以上、1回30分以上の息が少しはずむ程度の運動をすることを、厚生労働省が推奨しています。

 「10分間、10℃の冷水に右手を手首まで浸ける」という急性の寒冷ストレスや、「10分間、暗算課題に取り組む」という急性の心理的ストレスでも、すぐに唾液中のIgAが低下し始めることや、女性の月経前症候群(PMS)によるストレスでIgAが低下することなども確認されており、ストレスはIgAの低下に直接関係しています。

 強い慢性ストレスを感じている受験生や多忙なビジネスマンなどは、自律神経のバランスも乱れ、腸内細菌叢も乱れる上に、唾液中のIgAが低下することも確認されています3)。あとは加齢と共にIgAの分泌能は低下し、80歳以上では20~30代の半分以下になっていますので注意が必要です。

 免疫を下げる生活要素について、書いて見ました。以上の点に注意してコロナやインフルエンザを寄せ付けずに暮らしてゆきましょうね! 書いていて思うのは、食事、睡眠、運動、ストレスで気をつけることは、いつも同じです。健康長寿の基礎ですので、生活の中に取り入れることを、一つずつ増やしていってほしいと思う蒼野でした。

参考ページ: 日本人の食事摂取基準(2020 年版) 

https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf

参考文献

1)睡眠時間は主観的健康観及び精神神経免疫学的反応と関連する: 

                    行動医学研究、2010;15:33-40.

2)Upper respiratory tract infection is reduced in physically fit and active adults

:                   Br J Sports Med.2011;45:987-92

3)Academic stress, power motivation, and decrease in secretion rate of salivary secretory immunoglobulin A:           Lancet. 1983;1(8339):1400-2

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