片頭痛 その5 急性期治療

2021/11/17

今日は頭痛持ちの人に、関係がある実際的な話です。

 片頭痛は単なる頭の痛みではなく、ベースに脳が過敏な体質があり、遺伝することも多く、様々な誘因が関与すると書いてきました。頭痛が起こった時の、頭痛外来で勧める治療について、書いてみたいと思います。

 通常の市販薬で治る頭痛であれば、あえて頭痛外来を受診する必要はないのですが、片頭痛は厄介な頭痛で、人生の様々な時期に、増悪の火種があるのです。まず女性は思春期に月経が始まると、ホルモン周期の変動で、頭痛が大人型に変わり、時間も長くなるため、問題が大きくなる人が多くなります。

 次に受験や就職などでストレスが増えたり、勉強やパソコン作業などで、肩、首凝りがひどくなって頭痛頻度が増したりします。さらに、結婚し、家事、育児、仕事と忙しくなると、睡眠時間も不規則になったり、さらにストレスが増えたり、食事が偏ったり、運動不足になったり、過体重になったりと、どんどん頭痛の誘因が増えてしまう人が多くなるのです。そして片頭痛の有病率は20~40代の女性で、特に高くなります。

 片頭痛がどのようにして生じるのかは、まだ全ての現象を説明できる、確立した説はありません。今、分かっている事としては、誘因があると、CGRP(カルシトニン遺伝子関連蛋白)という物質が、脳内の硬膜血管周囲の三叉神経終末から放出され、局所の炎症を起こし、血管が拡張します。その刺激が三叉神経を伝わって、脳内の色々なところに伝わることで、嘔吐や多彩な症状を伴った上で、最終的に痛みを感じやすくなった大脳皮質感覚野が、強い痛みとして感じることになるようです。(ちょっと難しいので覚えなくていいです!)

 要するに脳が興奮しやすい性質で、普通の人には何でもない刺激が、脳内の様々な反応を引き起こしてしまい、強い頭痛につながると考えてください。この興奮は時間と共に変化してゆきます。また人によって、どんな現象が出るかも、まちまちです。

1、予兆期 

食欲が増したり、疲労感やあくびが出たり、肩首の張りや痛みを感じたり、眼鏡やマスクなど顔に触れているものが鬱陶しくなって外したくなったり、結んだ髪を解きたくなったりします。むくんだ感じがする人もいます。

2、前兆期 

閃輝暗点という視覚性前兆が有名です。目の前にキラキラ、ギラギラ、ギザギザ、歯車、黒い物、白い物などが現れて、その部分が見えにくくなります。後頭葉の視覚野の興奮することで生じますが、見えない場合の方が多いです。見えた時にはひどい頭痛になることが多いです。

3、頭痛期 

食欲低下や悪心、眠気、あくび、光や音が鬱陶しい、臭いが耐えられないなどの症状と共に、日常動作などが頭に響くようになります。これが頭痛初期で、一般的には薬を飲むのに良いタイミングです。放置すると頭痛のピークが訪れ、嘔吐したり、寝込んだりしてしまいます。

4、消退期 5、回復期 

ここで寝てしまえば回復に向かう事も多いです。しばらくは食欲低下や疲労感、気分的にはHighになったり、落ち込んだりもあります。利尿がついてから、いつもの状態に戻ってゆきます。

 このような発作が人によって、数時間から、3~4日間くらい続く人までいます。生活に重大な支障をきたす、辛い頭痛なのです。

 そんな頭痛を改善してくれる特効薬はトリプタン製剤です。これは処方でしか手に入らない薬です。これはセロトニン(5-HT)神経系に作用する薬(5-HT受容体作働薬)で硬膜血管の収縮、神経終末からの神経ペプチドの放出抑制、三叉神経核における痛みの伝達抑制等の作用があり、片頭痛が起こる原因的な部位に作用させることができるのです。

 ある意味、頭痛外来を受診する時点で、市販薬、つまり通常の鎮痛成分であるアセトアミノフェンや、イブプロフェン、ロキソプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)だけでは治らない、中等度以上の片頭痛ですので、うまくトリプタン製剤も併用して、鎮静する必要があります。

 あまり科学的ではない、例えの表現ですが、蒼野は薬の使い分けについては、片頭痛で脳内に興奮、反応が起こり始めると、頭痛物質が溜まり始めており、それがこぼれる段階になると痛みが出てくるイメージを持って考えてもらうようにしています。こぼれた頭痛を拭き取って無くすのが、アセトアミノフェンやNSAIDsで、頭痛物質が溜まるのを、蛇口をひねって止めてくれるのがトリプタンだと思ってもらっています。

 前兆期から頭痛の初期に、トリプタンで頭痛物質がこぼれでるのを止めれば、ひどい頭痛にはならずにそのまま治ります。頭痛がある程度進行して、沢山こぼれてしまったら、頭痛はピークに達してしまいますが、それ以上こぼれるのを止めておいて、アセトアミノフェンやNSAIDsを併用して、拭き取ってしまえば、通常よりは早く頭痛は改善します。

 トリプタンも、アセトアミノフェンやNSAIDsも、それぞれ有効な時間が決まっているので、脳内の興奮、頭痛反応が続いている時には、朝飲んで一旦落ち着いていても、また夕方に痛くなる事もあり、その時には追加して内服が必要になる事もあるのです。トリプタンとNSAIDsだけでコントロールできない場合には、制吐剤や、最終的にはステロイドなどで、強力に炎症を抑える事もあります。

 仕事を休むような頭痛があったり、休めずにすごく辛い思いをしている人は、まずは処方薬であるトリプタン製剤を手に入れましょう。片頭痛なので使ってみたいと言えば、普通の内科でも処方してくれるところが多いと思います。効かないからといって、市販薬の痛み止めを飲みすぎてはいけません。また解説しますが、それは薬の飲み過ぎで生じる、もっと辛い薬剤乱用頭痛に進んでしまうことがあるからです。

 トリプタン製剤は5種類あります。イミグラン(スマトリプタン)の経口剤と点鼻薬、自己注射キット、経口剤のマクサルト(リザトリプタン)、ゾーミッグ(ゾルミトリプタン)、レルパックス(エレトリプタン)、アマージ(ナラトリプタン)です。

 基本的には安全な薬ですが、体質によっては飲んだ後、胸苦しくなったり、倦怠感が強かったり、眠くなったりすることはあります(副作用)。頭痛に対する反応は、注射薬(12分)、点鼻薬(1時間18分)の順に速く、強い嘔吐を伴うような重症頭痛に使います。

経口薬では、最高血中濃度到達時間は

リザトリプタン(1~1.5時間)>エレトリプタン(1~3時間)>スマトリプタン(2時間)>ゾルミトリプタン(1~4時間)>ナラトリプタン(2時間42分)の順

効果の持続時間は(半減期)

ナラトリプタン(5時間)>エレトリプタン(3時間)=ゾルミトリプタン(3時間)>リザトリプタン=スマトリプタン(2時間)の順

 経口薬ではリザトリプタンが効くけど、効果が切れるのが速く、副作用が多い印象。ナラトリプタンは効くのが遅いけど、持続が長いので、生理時の長く続く発作に対応しやすく、副作用が少ない印象です。蒼野は効果は早いけど、マイルドで、副作用が少なめのエレトリプタンから処方することが多いです。

 人によってどれが合うのかは、3回飲んでみて判断するのがいいです。タイミングによって、効果の印象は変わるので、頭を振ったら痛いくらいの、早いタイミングでの内服がお勧めです。自分に合ったトリプタンが使えるようになると、頭痛コントロールは、かなり楽になる人が多いです。

 頭痛で寝込む人、会社や学校を休む人、辛いけど我慢して、仕事の能率が上がらない人などは、まずトリプタンが使いこなせるようになるのが、第一歩です。近くのお医者さんに、頭痛の相談をしてみて下さいね!

 次回は頭痛の予防薬について説明します。今日も長くなってしまいました。最後まで読んでいただきありがとうございました。

 参考書籍:頭痛治療薬の考え方、使い方  竹島 多賀夫