骨粗鬆症の対処法!

2023/02/03

 蒼野は脳神経外科医なのですが、最近生まれて初めて、胸椎圧迫骨折の患者様の入院中の主治医になりました。救急車で来院した人を調べてみると骨折しており、そのまま診せて頂く事になったのです。これから適切な治療を行うためにも、その原因である骨粗鬆症について調べてみる事にしました。

 日本人の最近の統計では、40歳以上で骨粗鬆症の基準を満たした人は、腰椎骨密度で男性3.4%・女性19.2%、大腿骨頸部は男性12.4%・女性26.5%でした。日本の男性で300万人、女性で980万人が骨粗鬆症である可能性があると推定されています。女性で言えば、60歳以降に急増し、60歳代で20%台、70歳代で40%、80歳以降で60%程度が骨粗鬆症と推計されます。

 骨粗鬆症自体は痛みは無く、骨折しない限り困る事はないのですが、腰痛の原因がいつの間にか骨折していた腰椎圧迫骨折だったりするのには、救急車を見ている蒼野もよくお目にかかります。大腿骨骨折は入院中に筋力が落ちてしまい、治療し1年経っても、元のようには歩けない人が50%もいます。寝たきりの原因にもなりやすい骨折なのです。

 骨粗鬆症があることで、死亡率自体も上昇します。日本人の12年間の研究でも、大腿骨近位部の骨密度が低い群は高い群にくらべて2.58倍も死亡率が高かったのです。年齢や体重、コレステロールや糖尿病などのリスク要因を調整後の結果ですので、骨粗鬆症は放置は出来ない病態です1)。

 特に女性が人生100年時代を、健康に生き抜くためには、骨粗鬆症のケアは欠かせません。それでは、骨粗鬆症はどんな風にして起こり、何に気をつけたら良いのか、どうやって治療するのかについて解説してみます。

 我々の骨の内部には海綿やスポンジのように隙間の空いた海綿骨があります。表面は骨膜で覆われた緻密骨=皮質骨で、骨成分がびっしりと詰まっているため硬くなっています。手足の長い骨などは皮質骨の割合が多く丈夫にできています。段ボールのように厚紙の間の波打つ紙があることで、軽くて丈夫であるように骨はできているのです。

 加齢と共に骨粗鬆症が進むと、海綿骨を作っている骨梁が減ってゆき、隙間がどんどん大きくなってスカスカになります。背骨の骨や手首の骨、大腿骨近位部などは海面骨の割合が多いため、ちょっとした外力で折れたり、いつの間にか折れてしまうということが起こります。

 硬くていつまでも変わらないように見える骨ですが、骨の新陳代謝は若い頃から起こっています。破骨細胞が骨を吸収する一方、骨芽細胞が骨を作ります。成人でも3年で新しい骨に作り替えられています。古い骨のカルシウムやコラーゲンが、破骨細胞で溶かされ、新しいコラーゲンとカルシウムを骨芽細胞が作っているのです。

 骨粗鬆症は様々な原因で、骨芽細胞の働きよりも破骨細胞の働きが勝ってしまうと起こります。二つの細胞の働きをコントロールする事で予防や治療ができるのです。その要素は栄養とホルモン、運動です。最終的には薬を使います。

 骨形成に必要な栄養としては、もちろんカルシウムと、コラーゲンの材料になるビタミンCとタンパク質です。カルシウムの吸収のためにはビタミンDが必要ですし、骨形成のためにビタミンKやマグネシウムも必要です。もちろんこれらが不足していることは避けなければいけません。しかしそれぞれ単独にサプリメントとして摂った場合の研究結果は一定しておらず、サプリメントだけで安心してはいけません。

 食事は複合的に作用するため、欧米型の食事を地中海食に変えると、有意に骨折のリスクが減るようです。13の研究をまとめたメタアナリシスで、地中海食スコアが高い群ほど、大腿骨頸部骨折リスクが低く、腰椎を始めとする全身の骨の骨密度が高くなっていました2)。

 骨粗鬆症といえばカルシウム、カルシウムといえば牛乳と思う方は多いと思いますが、欧米のメタアナリシスでは、牛乳の日頃の摂取量と、大腿骨骨折との関係は、研究によって異なり、Jカーブになっていたり3)、関連が無いとの結果だったり4)、乳製品で比べると、僅かですが100g以上摂取するよりも、全く摂取しないほうが良い3)などの結果が出ていて、有意差は出ていません。乳製品に含まれるMBPも、骨折予防に対する有意差を示す論文は出ていないのです。

 女性ホルモンのエストロゲンは、破骨細胞の働きを抑制しているため、閉経後に減ってしまうと、急速に骨粗鬆症が進みやすくなります。また加齢や体内炎症、酸化ストレス、糖化ストレスなども、骨のコラーゲンを変性させ、骨基質が劣化し、骨質の低下するため骨が脆くなります。

 去年学会報告された235名の閉経後女性に対する大規模な前向きランダム化比較試験の結果に、プルーンを毎日50グラム(5-6粒)1年間摂取し続けると、骨密度の低下が抑えられ、骨折リスクも下がったという報告があります5)。手軽ですし、食物繊維、ポリフェノールも豊富ですので、高齢女性には参考になるかもしれませんね!

 運動はとても重要な要素です。栄養を入れても運動、特に重力がなければ骨粗鬆症は進行します。宇宙飛行士は1ヶ月で1.0~1.5%も骨密度が低下するそうです。6ヶ月宇宙に滞在すれば20年分の老化に相当する骨密度低下が起こります。NASAの研究では、これを改善する最も効率的な方法は振動板(パワープレート)の上に立つ事でした。

 骨に重力を掛けるということが、骨を強くする基本です。振動板は結構高価で蒼野も持っていません。振動板以外では、軽いジャンプが最も効果がある様です。腰や膝を痛めない様に小さくで良いので1日50回程のジャンプを習慣にするのがベストです。もちろん歩行や階段昇降、片脚立ち、踵の上げ下げ、シコふみやスクワットは効果的です。特に女性は閉経前から習慣にするのが良いと思います。

 病院で行う治療は、破骨細胞の働きを弱めるものが3種類。骨芽細胞の働きを高めるものが1種類、骨の作り替えのバランスを整える新しい薬が1種類あります。

 すぐに骨に沈着しそれを食べた破骨細胞が死んでしまうことで、骨密度を5~10%アップするビスホスホネート。破骨細胞が働く時に必要な物質を阻害する抗体薬であるデノスマブ、骨密度を5~10%上げ、6ヶ月に1回注射します。エストロゲン受容体に作用して破骨細胞の働きを閉経前と同じように低下させるSERM(サーム)は骨密度3~5%アップと緩やかな効きです。

 骨芽細胞の働きを高めるものは副甲状腺ホルモン薬で、テリパラチドと呼ばれます。圧迫骨折後の痛みを和らげる作用が強いという事なので、今回の患者様にはまずこちらから使ってみようと思います。自己注射で投与するもので週1回または週2回の注射を選択します。

 運動しないで骨粗鬆症が進むのは、骨芽細胞に骨を作る必要がないという信号が伝わり、破骨細胞の吸収が進むからです。この信号のタンパク質の抗体ロモソズマブを投与すると、年15%の骨密度増加が得られます。月に1回の抗体の注射です。

 その他にも活性型ビタミンDやビタミンKなどを補給する薬もあります。骨密度測定で著明な低下があれば、骨密度増加効果は高いため、副作用も考慮の上で、薬を使うのがベターではないかと思いました。予防したい方は食事のバランスに気をつけて糖化や酸化を防ぎ、それでも気になる人はプルーンを食べながら、運動習慣を続けることが一番重要なことだと感じました。転ばないこと、尻餅をつかないことが大事ですからね!

 骨粗鬆症に対しても、アンチエイジングな生活習慣が効きそうです。太陽を浴びてビタミンDも出来るので、朝散歩は骨粗鬆症にも有効だなあと気がついた蒼野でした。

参考文献:

1)Low bone mineral density at femoral neck is a predictor of increased mortality in elderly Japanese women. ;  Osteoporos Int. 2010 Jan;21(1):71-9. 

2)Adherence to Mediterranean diet in relation to bone mineral density and risk of fracture: a systematic review and meta-analysis of observational studies. ; European Journal of Nutrition 57, 2147–2160 (2018)

3)Consumption of milk and dairy products and risk of osteoporosis and hip fracture: a systematic review and Meta-analysis. ; Critical Reviews in Food Science and Nutrition 60 (10) 1722-1737 2020 

4)Milk intake and risk of hip fracture in men and women: A meta-analysis of prospective cohort studies. ; J Bone Miner Res 26 (4) 833-839,2011

5)Prunes preserve hip bone mineral density and FRAX risk in a 12-month randomized controlled trial in postmenopausal women: The prune study [Abstract presentation]. World Congress on Osteoporosis, Osteoarthritis and Musculoskeletal Diseases, online. https://virtual.wco-iof-esceo.org/. 2022, March 24-26

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