RCVS(Reversible cerebral vasoconstriction syndrome)

2021/12/30

 今日は最近診断されることが多くなってきた、新型頭痛について説明しようと思います。ある日突然、雷が落ちたように、急に激しい頭痛が起こる疾患です。

 まずは蒼野が経験した、典型的な症例からお話ししますね。元々片頭痛をお持ちの40代の女性ですが、body makeの大会出場のために筋トレに励んでおられました。ある日筋トレ中に、急に後頭部から頭全体にかけての割れるような激しい頭痛が出現、約1時間でいったん頭痛は治まり、軽い頭痛が残りました。

 翌日トレーニングを始めたところ、再び同様の強い痛みと吐き気に襲われました。市販の鎮痛剤を飲んだのですが、全く効きません。その後も断続的に頭痛が続き、運動するとさらに痛みが強くなりました。トレーナーにも受診を勧められ来院、まず画像検査で出血がないことを確認し、臨床的に可逆性脳血管攣縮症候群(RCVSと診断し、薬を処方し、1ヶ月程度は、筋トレは控えるよう説明しました。

 急に激しい頭痛が起こり、1分以内に極大になる重度の痛みは、雷鳴頭痛と呼ばれ、一番に命に関わる頭痛との鑑別が必要となります。くも膜下出血や、椎骨動脈解離、下垂体卒中等を否定する必要があるので、MRI検査が必須です。出血や、血管の解離が否定されれば、慌てる必要はありません。この頭痛の概念が出てくるまでは、原因不明の雷鳴頭痛が、多く報告されていました。

 可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)は、75%が雷鳴頭痛のみの症状で発症します。入浴やシャワー、水泳、ダイビング、排便、興奮、性交、筋トレ、大声、咳やくしゃみなどが引き金となります。ほとんどが、元々片頭痛のある方です。まれに今まで片頭痛がなかった方でも、RCVSを発症した後に慢性頭痛を生じるようになる場合もありますが、その頭痛は片頭痛の特徴を有します。

 画像検査では、多くの場合、脳自体に異常所見は認めません。しかしMRAや3D-CTA、血管撮影などで脳血管を撮影すると、血管がところどころくびれているような、「数珠(strings and beads)」状の外観を呈します。脳動脈の収縮と拡張が交互に存在している状態です。変化は抹消で始まり、徐々に中枢側(根元側の太い血管)が変化してくるため、なかなかクリニックレベルのMRIでは、初診時に見つけることはできないのが実情です。2週間ほどすると、脳血管に攣縮が確認できる場合が出てきます。

 原因についてはまだはっきりと解明はされていないのですが、RCVSと片頭痛では、脳血管の緊張度の変化を起こす、共通の要因が存在しているのではないかと推測されています。片頭痛では、脳の血管が収縮した後に、拡張して痛みを起こします。可逆性脳血管攣縮症候群はこの収縮現象が、過剰になった状態である可能性がありそうです。

 日本全国で840万人いる片頭痛の方と、今までに症状は出ていない片頭痛遺伝子をお持ちの方には、生じる可能性のある頭痛でもあり、決して少なくない疾患です。ただ一般の内科医等に広く知られている訳ではないため、もし雷鳴頭痛を経験した場合には、専門医のいる大きな病院や、MRIのある病院を受診することが重要です。

 RCVSの頭痛は幸い、再発も少なく、血管を広げるミグシスやワソランなどのカルシウム拮抗薬を中心に、片頭痛の予防薬を応用したり、インドメタシンを含む痛み止めを選んで使うことでコントロール可能です。血管の攣縮は1~2ヶ月で回復します。頭痛の引き金になった行為は1ヶ月程度は避ける方が賢明です。

 注意点としては、片頭痛特効薬である、トリプタンを使わない事です。血管の攣縮中に、血管を縮めるトリプタンを使うと、痛みが強くなって転げ回ります。救急病院でも、画像が異常が無いため、片頭痛と診断されて、トリプタンの注射を使われて、大変だったという話は、患者様から時々聞いたりすることがあるのです。

 RCVSを起こす誘因には、交感神経系の過剰反応が関係すると考えられています。特に息を止める動作や瞬間的に力を入れる動作で発症します。ベンチプレスなどの呼吸を止めて、一気に負荷をかけるようなウェイトトレーニングや、便秘時のいきみ等は、注意が必要です。その他では、浴槽につかったり、シャワーを浴びるなどの温度変化、性交時頭痛で受診される場合を、蒼野もしばしば経験します。

 蒼野はまだ経験は無いのですが、血管の先端部分に負担がかかり、血管壁の状態に変化が生じて、血液成分が血管外に漏れる、脳の溝のわずかな出血が合併することがあるようです。また血管が縮みすぎると、脳梗塞を合併することもあるようです。誤ってトリプタンを飲むことで誘発される可能性がありますので、早めにきちんと診断してもらうことが重要です。

 可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)は可逆性と名付けられている通り、多くは治るもので、死亡率や再発率は低いとされています。命に関わる疾患ではないため、逆に知名度が低いように思います。蒼野の妻も片頭痛持ちなのですが、この夏にホットヨガ中にガーンと痛くなったようです。薬を選んで、安静にしていたら、2~3週で頭痛は消えました。

 典型例の40代女性は、BBJ福岡大会が迫っているので、何とか筋トレが出来ないだろうか、と相談されたのですが、残念ながら今年は見送るようお話ししてしまいました。片頭痛持ちの方は知っておいて頂きたい疾患ですので、頭の片隅に残しておいてくださいね!