Zoom疲労!

2022/08/31

 最近「Zoom疲労」という言葉を目にしました。蒼野もコロナ禍になって、オンラインでの勉強やコミュニケーションが実際に増えているなあと思います。Zoomなどの遠隔コミュニケーションツールやテレワークを週に1回以上行う人の割合は、2020年3月時点での実施率が24.0%から、2021年8月の実施率は65.0%と急速に増えているようです。

 確かにデジタル全盛の時代となると、妙な疲れが残る気がします。コロナが終わっても、後戻りはしないと思いますので、今日は「Zoom疲労」について紹介しておきたいと思います。新たにテレワークをする様になった2,272人を対象とした調査では、テレワーク開始前にはなかった仕事上のストレ スを感じた人は約6割でした。

 これは世界でも同様の様で、論文データベースで検索すると、「Zoom疲労」についての論文が10件以上ヒットします。コロナが産んだ新たな疲れとも言える様です。スタンフォード大学の研究では、Zoomでの疲労には4つの理由が有るそうです1)。

 一つ目は全ての参加者が目に入る環境であるということです。通常の会議などでは、発表者に注目が集まりますが、Zoomでは多くの人の視線が自分に向いていて、また自分も相手を見ている状態です。また発表者の顔が大きく表示されるモードでは、相手の顔が近くに感じられます。脳は近い距離でのアイコンタクトを、交尾か、敵が攻撃している状況と判断しやすく、不要な興奮を起こしてしまいます。

 日常生活では、アイコンタクトは親しい人としか行いません。皆様も知らない人を目が合うと視線をそらしますよね! しかしZoomでは見知らぬ人と目が合う上に、その距離もとても近く感じます。Zoom画面から視線をそらすことは失礼にあたる為、本能的に居心地が悪い状態が続いてしまうので、疲れてしまうのです。

 これらを防ぐ工夫としては、一人の全画面表示は避け、参加者の顔が小さくなる様に表示を行い、ディスプレイから離れると疲れにくくなるとのことです。もし可能であれば、ビデオ機能オフで参加するのも、疲れている時には良い方法になります。

 二つ目は、画面上に自分の顔も映されている事です。自分の顔を見続けると、自分に対してより批判的になりやすいのです。「ミラー効果」と言って、テレワークが創り出す特異な状況の一つです。私達は自分の顔や表情の変化に気を配りながら会議に臨みます。

 自分を客観視する 意識が高まると、自分の思い描いている自分と現実とのギャップに気づいてしまうことがあります。自分がイケテいると思える人は良いのですが、見た目の欠点が気になり、テレワーク の前に入念にチェックし、手入れに時間をかける人も結構おられるのです。これも疲れてしまいます!

 三つ目は、ヒトが無意識に行なっている、対人的な認知情報が得られにくいことです。メラビアンの法則と言って、ヒトは他人とのコミュニケーションで得られる情報を、言語7%、聴覚38%、視覚55%の割合で重視しています。

 Zoomでは発言内容や、相手の声からの情報は、対面と同じように得られますが、見た目や雰囲気、その人の姿勢や指先などは、カメラに映る情報しか得られず、大幅にカットされています。受け取れる情報は顔や上半身の一部であり、通常身体全体から受け取っている情報が欠如しているのです。

 Zoomで正確に伝えたり、それを受け取ったことをアピールするには、対面の時には無意識に行なっていた頷きや、身振り手振りを大げさに行う必要があります。大きめの声で、対面する状況以上に明確な言語、非言語情報を伝えるよう努力する必要があるのです。しかし画面上で身体の端々に現れる相手の心理状態や特性を推測するのは容易ではなく、大きな認知的負荷を負うこととなり、疲れてしまうのです。

 四つ目はパソコン画面の前で、長時間を過ごす必要があることです。座りっぱなしの健康リスクは言うまでもありません。長時間じっとしていると疲れます。IT 機器を長時間使うことによって生じる心身の不調や疾患はVDT(Visual Display Terminal)症候群と呼ばれており、全体の68.6%に認められる症状です。

 VDT症候群の内訳としては、厚生労働省の調査で「目の疲れ・痛み」が90.8%、「首、肩のこり・痛み」が74.8%、「腰の疲れ・痛み」 が26.9%「頭痛」が23.3%、「背中の疲れ・痛み」が22.9% と報告されています。通勤や会社内の移動などが、実は大事だったことが分かります。

 解決策としては、会議中に定期的に動画をオフにする基本ルール「音声のみ」タイムを設けると、休息が取れます。オフしている間に立ち上がって体操しましょう。滞った血流を改善できれば疲れは随分と楽になるはずです。これは実行できそうですよね!

 慣れない働き方で、疲労が蓄積すると燃え尽きてしまうことも懸念されています。「Zoom バーンアウト」です。WHOはバーンアウトは「職場での慢性的なストレスをうまく処理できないことに起因する症候群」と定義しています。慢性的なストレスによって、気力が衰え、エネルギーが枯渇し、何もできなくなる状態です。

 こういう状態に差し掛かると、ヒトは防衛のために仕事との間に距離を置き始め、周囲の人を非難したり、言い訳をしたりします。燃え尽きる人は、それまで人一倍仕事をこなしていた人である場合が多く、そのギャップから自己否定に結びつく人も少なくありません。

 オンライン中心に仕事の形態が急に変わることで、特に年配の人では、今まで培ってきた自分の技能や知識などの経験を活かすことができなくなりやすいのです。テレワークでは周りの人との関係が希薄化しやすく、雑談もできにくいので、互いに認め合い評価される機会も減ります。

 うまくいかない時も、仕事以外の会話で助けられることは多いものです。「次は頑張ろう」 という気にさせてくれる仲間とのコミュニケーションが減ることで、仕事に対する意欲も低下しがちです。またモデルにするべき先輩や同僚の姿も見えにくく、自分で工夫してゆくしかなくなるのです。

 今まで上司からの詳細な指示や、チーム内でのすり合わせにより仕事を進めてきた日本人には、自分が主体となる仕事環境に馴染めない人が、沢山出てきても無理はありません。自信を喪失しやすくなり、また自宅でのオンオフの切り替えができなくなると、長時間労働になってしまい、疲労困憊する人も出てくるのです。

 バーンアウトを経験した人は、休職そして離職を選択する場合が少なくありません。戻れたとしても、意欲の低下や目的意識の喪失などで働き方が変わってしまったり、メンタル疾患の発症につながる人も多くなります。

 これからもどんどん技術の革新は起こってゆき、AIにできない仕事が残ってゆく時代です。貴重な人的資源の損失に繋がるバーンアウトを起こさないよう、新しいデバイスの使い方には工夫が必要なのだろうと思います。

 何よりも働き方が変わっても、まず身体と心が元気であることが一番重要です。食事、運動、睡眠、コミュニケーションを大事に過ごし、新しいことにトライしてゆきましょうね!

参考書籍: 1) Nonverbal overload: A theoretical argument for the causes of Zoom fatigue.
;Technology,Mind, and Behavior, 2(1). 2021

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