嗅覚低下は放っておけない!!

2022/11/05

 初期のコロナではよく話題になった嗅覚障害ですが、オミクロン株になって少し頻度は減っているようですね。でもこの夏に嫁いだウチの長女もコロナ感染し、しばらく嗅覚がおかしかったようです。元気になってからは気にならないとのことですが、以前に比べると、匂いが少し弱くなったかもとのことでした。

 今日は嗅覚障害が、疾病のサインになり得るというお話です。加齢によっても低下はしてきますが、自覚しにくい感覚ですので、早期発見には何を匂って判断すれば良いのか、もし嗅覚が悪くなっているようならどうすれば良いのかなどについて書いてみたいと思います。

 最近健康診断の仕事が少し増えている蒼野ですが、嗅覚の検査はありません。視覚や聴覚に比べてあまり注目されていないのかも知れませんね。嗅覚も視覚や聴覚と同じように加齢とともに衰えていきます。しかし自分では気付きにくい感覚です。

 健康な日本人高齢者を対象としたアンケートで、8割上の人は、自分の嗅覚は正常と答えました。しかし、詳しく検査すると約6割もの人に嗅覚の低下がみられています。検査の方法としては、みんなが知っている12種類の匂いを識別してもらいます。12点満点で、8点以上が正常です。自分が正常だと思う人でも1~2点しか取れないような隠れ嗅覚障害の人が結構存在していることがわかっています1)。

 急に嗅覚が低下する病気としては、最も多いものが慢性副鼻腔炎(いわゆる蓄膿症)です。脳外科で頭の画像を撮影すると、副鼻腔に貯留が見られる方はかなりの確率でおられます。年間で新規に副鼻腔炎を発症する方は100人に1人ですので、症状はないけど貯留が残る人は含めた画像の研究では、7%くらいはおられるようです。

 二番目が感冒後で三番目が頭部外傷です。アレルギー性鼻炎、脳疾患、薬物、脳や副鼻腔の手術なども原因となる事もあります。一般的なリスクとしては、60歳以上、男性、喫煙者です。注目すべきは、年々増えてきている認知症との関係です。アルツハイマー型認知症(AD)やレビー小体型認知症(DLB)では、認知機能が落ちてくる前から、嗅覚が低下してくることが指摘されています。

 レビー小体型認知症と同じく、脳内にαシヌクレインが溜まって発症するパーキンソン病でも、何年も前から嗅覚が悪くなる事が知られているのです。もし嗅覚障害の初期に気づく事ができれば、生活習慣を変えることによって認知症などの神経変性疾患が予防できるかも知れないという可能性が指摘されているのです。

 認知機能低下のないアメリカ人の前向き観察研究によると、においの識別テストのスコアが、平均よりも低い高齢者では、5年後にMCIになる確率が、スコアが平均以上の高齢者と比べて約50%も増加することが報告されています。

 そしてMCI患者に対する前向き観察研究では、嗅覚が低下している人は、MCIからADに移行しやすい事がわかりました。ここで行われた嗅覚テストは40種類の匂いを識別するもので、全て正解で40点となります。MCIからADに移行した人の平均点数は25.8点と低く、移行しなかった人は33.2点で正常範囲内でした。

 もちろん副鼻腔炎など、別の原因での嗅覚障害も混ざっている可能性があるため、点数が低いから認知症になると言うことではありませんが、先ほどの日本人高齢者の嗅覚検査で、認知機能を調べたところ、正解数は健常者、MCI、AD患者の順に低くなっていました。

 匂いの種類で言えば、カレーの匂いは97%の健常者が正解するのに対して、MCIでは70%、AD患者では35%の人しか正解できませんでした。カレーの匂いが分からなくなるのは、一つの危険信号と見て良いようです。MCIの段階であれば、まだ戻れますので、生活習慣を整えましょう。

 まずは睡眠です。脳内にアミロイドβが今以上に貯まらないように、7時間以上眠る様に整えましょう。睡眠中に脳は収縮してスキマを作り、脳脊髄液がアミロイドβなどの老廃物や毒物を洗浄してくれています。少なくとも6時間以下にはならない様に良い睡眠時間を確保しましょう。そして毎日20分で良いので運動しましょう。歩いている人は認知症になる確率が半分以下になると言われています。

 そして、もう一つの重要な病態に嗅覚障害は関与している様です。高齢者では認知症と共に大きな問題である、サルコペニアやフレイルです。これは嗅覚が食欲に大きな影響を持っているからではないかと推測されています。面白いことに味覚障害は、サルコペニア、フレイルのリスクに関連性が認められていません。

 食べ物の美味しさに影響するのは味覚と嗅覚です。味覚の機能は嗅覚ほど加齢による影響を受けません。歳を取って食べたくなくなるのは、知らない間に嗅覚が低下し、それが食欲に影響している可能性が高いのです。食は細くなれば、エネルギー不足から動きにくくなり、動きにくくなれば筋力が低下してサルコペニアになり、合わせて意欲も低下し、全身が弱ってフレイルの状態に移行してゆきます。

 嗅覚識別テストでは、健常な高齢者は分かるけど、サルコペニアやプレサルコペニアの人が識別しにくい匂いがあります。材木、ヒノキ、焦げたニンニクのにおいの合計点が1点以下であることが多かったのです。またフレイル、プレフレイルでは、墨汁、カレー、メントール、ミカンのにおいの合計点が2点以下になっていました。

 120万人のメタ解析の結果、聴覚と視覚が低下すると、全死亡リスクが40%、心血管死亡リスクが86%上昇すると言う論文が去年の12月に発表されています2)。これらも認知症やフレイルのリスク因子として大きな影響があるとされているのです。眼鏡や補聴器で補なえれば、死亡率は低下します。

 嗅覚障害についても同様の研究が存在します。2万1601人のメタ解析で、全死亡リスクは52%上昇しています3)。オーストラリアの60歳以上を対象とした前向きコホート研究でも、嗅覚が正常な人の5年後の死亡率が8.3%であったのに対し、軽度の嗅覚障害の人では16.4%、中程度の嗅覚障害の人では27.4%と、障害の程度が進むにつれ高くなることが示されています。

 また嗅覚が完全に障害された人は、正常な人に比べて5年後の死亡率は約4倍になったというアメリカの研究もあります。これは嗅覚脱失の人の死亡率は心不全、脳卒中、がん、糖尿病、慢性閉塞性肺疾患を持つ人よりも高いという結果であり、衝撃的です。しかし明確な理由は判明していません。嗅覚は補う装置や道具が無いため対応が難しいと言えます。

 歳を取っても嗅覚を維持する重要性を意識しておきましょう。具体的には週3回汗ばむくらいの運動が嗅覚低下を予防するという報告や、食べ物を食べるときに何の匂いかを意識して嗅いで、日頃からトレーニングすることが重要と言われています。原因が鼻の病気であれば、治療で7~8割は治ります。

 バラ(or ラベンダー)、レモン、ユーカリ、クローブの香を1日2回、10秒嗅ぐトレーニングキットも売っています。3ヶ月以上続けていると、鼻粘膜を刺激し嗅神経細胞再生が促され,嗅覚障害を改善するという治療方法があるようです。ポストコロナでも有効の報告があるので、嗅覚が弱い人は試してみても良いかも知れません。昨日書いた当帰芍薬散も、6~7割に有効です。

 毎日レモンを搾り、時々カレーを食べて、嗅覚チェックしてゆきたいなと思う蒼野でした。

参考文献:

1)嗅覚の加齢変化と生命へ及ぼす影響 三輪高喜  医学のあゆみ  Volume 282, Issue 6, 714 – 719 (2022)

2)Associations of Hearing Loss and Dual Sensory Loss With Mortality: A Systematic Review, Meta-analysis, and Meta-regression of 26 Observational Studies With 1 213 756 Participants. ; JAMA Otolaryngol Head Neck Surg. 2022 Mar 1;148(3):220-234.

3)Association of Olfactory Impairment With All-Cause Mortality. ; JAMA Otolaryngol Head Neck Surg. 2022;148(5):436-445. 

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過去ブログ:    https://blue-zone-life.com/嗅覚/

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