老化と腸内細菌!

2022/07/05

 腸内細菌については何度か書いているのですが、今日は蒼野自身とても興味のある、腸内細菌と老化の関係の話です。100歳以上の人が多いことで知られる京都府京丹後市の高齢者の腸内細菌叢を調べた結果から、長寿のカギを握る腸内細菌がわかったという記事を見つけました。

 腸と老化の関係を探る研究で有名な、京都府立医科大学生体免疫栄養学講座の内藤裕二教授らの研究です1)。100歳以上の百寿者が全国平均の約2.7倍多い長寿地域として知られる京都府京丹後市の高齢者の腸内細菌叢を分析し、京都市都市部の高齢者の腸内細菌叢と比較しました。

 京都市内と京丹後市の高齢者(65歳以上・各51人)の腸内細菌叢を属レベルで比べると、京丹後市の上位4属は、全て酪酸産生菌でした。まだ確定したエビデンスとなる結果ではないのですが、酪酸産生菌が、長寿に影響している可能性があるということです。

 以前のブログでも書いたのですが、酪酸は大腸の細胞のエネルギーとなる物質で、腸の健康維持に必要な物質です。リーキーガットを防ぎ、腸内の炎症のみならず、全身の慢性炎症も防いてくれます。肥満予防効果や免疫機能も整えてくれる、健康の鍵になる物質なのです。

 老化は、糖化と酸化による慢性炎症が大きな原因ですが、炎症を抑える物質が腸から供給され続けるということは、普通に考えても、長寿の一因になっていると思います。高齢マウスを用いた実験で、腸内の酪酸菌を増やすと、脳神経の老化の進行が抑えられたとの報告もあります。

 腸内細菌叢の中には、人体に良い影響を及ぼす「善玉菌」、有害物質を作り出す「悪玉菌」、勢力の強い方の作用が強くなる「日和見菌」の三種類が生息しています。酪酸産生菌は善玉菌の一種で、食べ物ではぬか漬けや臭豆腐などに含まれていますが、現代の食生活ではそれほど食べる頻度が高い食品では無さそうです。

 腸内で酪酸産生菌を増やすのは食物繊維の多い食事です。京丹後市の高齢者は、海藻、全粒穀物(玄米、雑穀など精製されていない穀類)、葉野菜、根菜、豆類、イモ類など食物繊維が豊富な食品を毎日摂取している人の割合が高いそうです。ブルーゾーンと言われていた時期の沖縄の食事にも通じるものがあります。

 興味深いのは、蒼野も今まで強調してきた、年を取るほど必要だと言っていたタンパク質の摂取量があまり多くないことです。高齢になると、握力が下がり、歩行速度が遅くなる、サルコペニア(筋肉減少症)が増えるのが一般的ですが、京丹後市の高齢者にはサルコペニアが非常に少ないのです。

 京丹後市の高齢者のタンパク質摂取量と骨格筋量の関係を調べたところ、全く相関がみられていません。しかし腸内に酪酸菌が多いほど骨格筋量も多い傾向がみられていて、サルコペニアの抑制にも、酪酸産生菌が関わっている可能性が示唆されたのです。

 これはマウスの実験でも証明されていて、肉などの動物性タンパク質を摂らなくても、酪酸菌の餌となるグアーガム分解産物を投与すると、マウスのサルコペニア肥満が改善しています。2)

 豆などの植物性タンパク質や、魚介類、食物繊維が多い食事をして、酪酸産生菌を増やせば、筋肉量や握力が増加し、サルコペニアが改善するということです。これにはオートファジーも大きく関与している可能性があります。オートファジーによって作られるタンパク量は1日240gです。腸内環境を整えることで、この反応が活性化していれば、筋肉は落ちないということなのでしょう。

 原始の狩猟採集生活では、獲物が取れない期間が長い時期もあったと思います。食物繊維の多い食べ物は手に入りやすく、古代から酪酸産生菌と、人類は共生してきたと思われることから、飢餓の時期も、筋肉を落とさずに生活できたと考えることができるように思いました(私見です)。

 ヴィーガンの人に筋肉が出来ない訳でもなく、オリンピックで金メダルを取るようなトップアスリートでも、最近では、いわゆる赤肉(牛肉、豚肉、羊肉など)ではなく、魚介類や豆からタンパク質を摂取し、食物繊維を積極的に摂ることで成果を上げている人もおられるのです。

 内藤教授の研究に、日本人の腸内細菌のタイプ分けの論文もあります3)。国内の男女、1803人の糞便を遺伝子解析して、腸内細菌を同定しました。14~101歳(平均年齢64.2歳)、心疾患、肝疾患、機能性胃腸障害などの患者1520人と健康な人283人です。

 日本人の腸内細菌叢は、タイプA、B、C、D、Eの5種類に分類できるそうで、健康な人が多かったのはタイプBとEで、タイプA、C、Dの人には心血管疾患、炎症性腸疾患、機能性ディスペプシア、糖尿病などの、老化とも関連のある炎症性の病気が多くみられました。

 Bタイプには脂肪の吸収を抑える〝ヤセ菌″として注目されているバクテロイデス属の腸内細菌が多く見られ、タイプEは、食物繊維の摂取量が多い人によくみられる、善玉菌のプレボテラ属の細菌が多く、最も病気になる人が少なく、健康的でした。

 腸内細菌叢のタイプは乳幼児期に形成され、大人になってからは血液型と同じように簡単には変わらない可能性が高いという考え方もありますが、食事や生活習慣を変えると、徐々に変わってくることは、以前のブログにも書きました。運動するとラガーマンの菌が増えたり、マラソンすると持久力を増す菌が増えたりするのです。

 一番影響が大きいのは食べ物であることは分かっています。スウェーデンのイエーテボリ大学のマウスの実験では、ラードが45%含まれる高脂肪食と、魚の油が45%含まれる高脂肪食を11週間与えて比較すると、ラードのグループは、肥満し、インスリン抵抗性が出現し、腸の炎症を亢進する菌が増えていました4)。

 魚のグループでは、酪酸産生菌の一種であるアッカーマンシア菌が増加し、血糖コントロールが良くなり、体重も増えにくくなっていました。カロリーは一緒でも健康にも大きな差が出たのです。また早老症マウスに正常マウスの糞便を移植した実験では、実際に寿命が伸びているのです5)。こうして見ると、まだはっきりとは分かっていないものの、腸内細菌が健康寿命に大きく影響することが分かりますね!

 蒼野はずっと体重×1.5~2gのタンパク質摂取にこだわってきましたが、長寿や健康寿命の情報で、赤身肉や動物性脂肪が良くないという情報も、たくさん目にするため困惑してきた部分があります。世界の長寿地域、ブルーゾーンでは、肉はお祝いの時にしか食べません。食物繊維たっぷりの主食を摂っているところばかりなのも事実です。

 肉や卵やチーズ、生クリームが大好きな蒼野としては、全面的なブルーゾーンの食事への変更には、なかなか踏み切れないところではありますが、タンパク摂取のために無理に食べる必要はないことが分かりました。確かに動物性タンパクと脂肪の摂取を、勧めない健康学者の意見にも耳を傾ける必要はありそうですね!

 今後さらに地球人口は増えて、食糧危機は目の前にある問題です。SDGsの社会のためにも、畜肉食によるエネルギー効率の悪さを考えても、徐々に植物食へ、みんなが移行して行くことは、次の世代の為にも、健康長寿のためにも必要なことだろうと思います。

 若々しく人生を全うしたいので、魚と繊維いっぱいの植物食をもっと増やして行きたいなあと、思ったりする蒼野でした。

1)Gut microbiota differences in elderly subjects between rural city Kyotango and urban city Kyoto: an age-gender-matched study:J Clin Biochem Nutr 2019,65:125-131.

2)Partially Hydrolyzed Guar Gum Suppresses the Development of Sarcopenic Obesity: Nutrients. 2022 Mar 9;14(6):1157.

3)Typing of the Gut Microbiota Community in Japanese Subjects: Microorganisms. 2022 Mar 20;10(3):664. 

4)Crosstalk between Gut Microbiota and Dietary Lipids Aggravates WAT Inflammation through TLR Signaling:    Volume 22, Issue 4   2015, Pages 658-668

5)Healthspan and lifespan extension by fecal microbiota transplantation into progeroid mice:  Nat Med. 2019 Aug;25(8):1234-1242.

https://blue-zone-life.com/短鎖脂肪酸/
https://blue-zone-life.com/便移植療法!/

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