認知症の発症を先延ばしにする方法!

2023/02/13

 今日は昨日に引き続いて、どんな生活をすればアルツハイマー型認知症になるのを遅らせることが出来るのかについて考えてみたいと思います。人生が長くなる程、脳は少しずつ変性してしまいます。死亡後の脳を解剖すると、85才過ぎて脳にアミロイドβが溜まっていない人は居ません。これが多いか少ないか、そしてアミロイドの神経毒性で脳が減っていっても、残った脳でどれだけ機能が維持できるかという事が、認知症を発症してしまうかどうかに大きく影響するのです。

 寿命自体が伸びてきた今、ざっくり言えば人生の最後の10年は、アルツハイマーと隣り合わせで、上手くコントロールしてゆく必要があるということになります。医療は飛躍的に発達しており、iPS細胞などの技術が実装されるようになると、癌や血管病などの脳以外の臓器の疾患は、再生が可能となります。しかし脳細胞は取り替えてしまうと、その人では無くなるため再生できず、最後まで治療が難しい臓器になる確率が高いのです。

 そのための要素としては、まず1、アミロイドβを溜めやすい食事や習慣や環境を排除すること。2、アミロイドβを排除し脳細胞を増やす習慣を整えること。3、残った脳機能を高め、能力を維持する生活を送ること。の三つに集約出来ると思います。

 病原菌やウイルスが脳に入ると、それを防ぐために免疫物質としてのアミロイドβが溜まることは一昨日のブログで書かせていただきました。虫歯や歯周病菌が沢山体内に入らないよう、口腔ケアを怠らないことや、脳に親和性の高いヘルペスについては、抗ヘルペス剤を使う事は、大事だと思います。環境からカビを排除することも行いましょう。

 アルツハイマーは脳の炎症疾患と言われていて、脳内で炎症、免疫反応が起こると、アミロイドβが出てきやすくなります。これは体内炎症と相関しており、身体の慢性炎症を少なくすることで、アミロイドβの蓄積は少なくなります。まずは食べ物が問題となります。

 腸の状態は体内炎症を大きく左右します。腸粘膜上皮の結合が緩くなり、腸内から未消化のペプチドなどが体内に流入すると、免疫細胞が活性化します。体内炎症が燃え上がってしまうのです。同様のことは血糖スパイクでも起こります。異物という意味では、添加物やタバコなどの化学物質も少ない方が良いです。アルコールもアセトアルデヒドに変わり炎症を起こします。

 現代生活において、全部をカットすることはできませんが、なるべく減らせるものは減らすことが大切です。腸に穴を開け、リーキーガットを起こす主な食べ物は小麦のグルテンや糖質です。白いパンや麺、甘い飲み物等は、特に中年期以降は減らしておく方が安全です。

 麺類については、日本人の研究があります。米の摂取と認知機能は関連はありませんでしたが、うどんや素麺などの、小麦を使った麺類の1日摂取量が108g増加すると、認知機能低下リスクが43%も上昇していました1)。ちなみに10割蕎麦は良いので、麺を食べるなら蕎麦です。

 蒼野が外来で認知症を診る時は必ず、日頃食べているものをご家族に聞くのですが、菓子パンや甘い飲み物、和菓子や、麺類などを毎日食べている人が圧倒的に多いです。砂糖と小麦に関しては太りやすくもなり、内臓脂肪が多くなると体内炎症が強くなることを考えると、大きく影響するものだと思います。

 また簡単に食事を済ませる人は、沢山の食材を食べていません。食事の多様性が少なくなると腸内細菌の多様性も低下し、悪玉菌優位になりやすくなります。善玉菌が出す物質、酪酸などの短鎖脂肪酸は体内炎症を消してくれるため、腸内細菌を良い状態に保つことは認知症を遠ざける事につながります。

 食事の多様性が保たれている高齢者は、そうでない人に比べて、認知機能が低下するリスクが約4割も低いという研究結果もあります2)。さらに食品摂取の多様性は記憶と深く関わる脳の海馬の容積とも関わりがあることが明らかになっています。2年間の海馬の萎縮率を、食事の多様性に基づく5つのグループで比較したところ、多様性が最も高いグループでは、最も低いグループに比べて海馬の萎縮率が約0.5%(年間の萎縮率と同等)少なく抑えられていました3)。

 単品メニューが多く、毎日同じようなものを食べる食生活と、一汁三菜のようなおかずの種類の多い食事を摂る食生活では、2年経つと1年分の脳の萎縮の差ができてしまう事になります。増やしたい食材としては、体内炎症を抑えるオメガ3を含む魚介類や野菜、豆類特に大豆、ナッツ、チーズやヨーグルトなどの発酵性乳製品、緑茶、ターメリックなどのスパイスが、アルツハイマー予防にそれぞれデータが出ています。

 例を挙げれば、60歳以上で青魚をよく食べる、血中DHA濃度が中程度以上の人は、DHA濃度が最も低い人たちに比べると、10年後に認知機能が低下しているリスクがが約80~90%も低い事が分かっています。まさに『魚を食べれば、頭が良くなる~!』です4)。麺類が多い人は食事の多様性が少ないという面でも不利なのでしょうね!認知症を遅らせるには、やはりバリエーション豊かな、手作りご飯が最強だと思います。

 食物繊維をしっかり確保し、毎日違う食材を食べるのが理想ですね。飲み物はポリフェノールを考えれば、緑茶や紅茶、コーヒー、アルコール過多にならない程度の赤ワインにしてゆきましょう。ダークチョコレートもおすすめです。人工甘味料は腸内細菌を悪玉に変えやすいので、カロリーゼロも含めて、甘い飲み物は飲まないようにしましょう。食事には、ターメリックやカレー粉、七味唐辛子などを使うのも、多様性を増やす方法になります。

 脳に溜まったアミロイドβを排出し、脳細胞を増やす生活習慣の代表は運動です。最近の研究でも、22000例、21件のメタアナリシスで、低強度や高強度よりも、中強度の運動の認知機能に対する効果が高く、遂行機能に特に大きな効果がある事が分かっています5)。

 運動すると筋肉から分泌されるイリシンがBDNF(脳由来神経栄養因子)を増やし、海馬や前頭葉の神経細胞が増えることがわかっています。またアミロイドβを分解する酵素ネプリライシンを活性化し、アミロイドβの蓄積を防いでくれるのです。30分程度の運動を週3~4回、ウォーキングやスロージョギング、自転車漕ぎなどがお勧めです。

 ちなみにネプリライシンは、インスリンの分解酵素でもあるため、血糖スパイクを作るような食べ方が多いと、インスリンが多量に分泌され、その処理で使われてしまうためにアミロイドβの分解に回らなくなります。中年期以降は、糖質過多な生活を続けないよう、時々の楽しみにして下さい。インスリン抵抗性が増し、インスリンの血中濃度が高くなる糖尿病で、アルツハイマーが多くなるのも、ネプリライシンを消費してしまうのが一因です。

 アミロイドβの蓄積を洗い流して防いでくれるのが睡眠です。グリンパティックシステムにより、脳脊髄液が、non-REM睡眠中に、アミロイドβを減らしてくれるのです。睡眠時間が短いと排出が少なくなります。深い睡眠が必要ですので、睡眠を悪くするような寝る前のブルーライトやアルコールはなるべく減らしたいものです。

 今日はアミロイドβを溜めない生活、減らしやすい生活について書くだけで、紙面が足らなくなってきました。明日は死なずに残っている神経細胞を活性化することで、認知症を遅らせる生活について、お伝えしたいと思います。

 注意する事が多すぎて出来ないよと思われる方も居られるかも知れませんが、知っておくことで工夫できると良いですよね! 外食でもワンプレートではなく定食にするとか、食べる順番を変えるとか、スパイスをふりかけてみるとか、出来ることから習慣にしてみましょうね!

 蒼野も事故のためにお酒が減りましたが、甘いものは大好きです。ストレスを溜めないことは体内炎症を抑えるのに本当に重要なので、無理はせずに、楽しみながら生活を変えてみてください。夕食の最後にクルミに粒あんとホイップクリームを乗せて食べるデザートが最近の楽しみになっている蒼野でした。

参考文献: 

1)Cereal intake increases and dairy products decrease risk of cognitive decline among elderly female Japanese. ; J Prev Alz Dis. 2014; 1(3): 160-167. 

2)Dietary diversity decreases the risk of cognitive decline among Japanese older adults ; Geriatr Gerontol Int. 2017;17(6):937-944.

3)Dietary diversity is associated with longitudinal changes in hippocampal volume among Japanese community dwellers ; European Journal of Clinical Nutrition. 2021;75:946-953.

4)Serum docosahexaenoic and eicosapentaenoic acid and risk of cognitive decline over 10 years among elderly Japanese ; Eur J Clin Nutr. 2014; 68(4):503-509.

5)Effects of exercise training on cognitive function of older adults with cognitive impairments: an umbrella review of meta-analyses. AAIC 2020; SO4-03-03.

過去ブログ:

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